第338話 アナザー 護の笑えない理由 その22

文字数 773文字

 なんだ。
 握りしめた手が小刻みに震えて、……何かがおかしい。
 実の兄にこんな態度。

「友人?」
 匠の顏が豹変した。
「友人だって。お前にそんなモノ必要ない」
「兄さん、その」

 匠は弓を壁に立てかけるとガシッと先輩の両腕をつかんで上に引き上げ体を壁に押し付けた。
「……つっ。やめて、痛い、兄さん、放して」
「お前に友達を作る権利はない」
「……」
「夢見を殺したお前にはな」

 こいつか。
 先輩が笑えなくなった原因。
 瞬時に悟った。
 こんな事を言われれば誰だって!
 俺は匠の腕にしがみついた。

「先輩から手を放せ」
「なんだ。お前は」
「高森、やめろ。兄さんから手を放せ。抵抗するな」
 なんで……なんでそんなに素直なんですか。

 夢見さんは交通事故で亡くなったはずだ。
 先輩が殺したわけじゃない。

 抵抗すべきだろ。抗議すべきだろ。
 こんな理不尽な事言われて、先輩は!
 俺は匠につきとばされて地面に転がった。

 先ほどのカラスが上空から急降下して匠に襲いかかった。
 ギャーギャー鳴きながら匠の頭を爪とくちばしで攻撃してくる。

「ちっ、またこのカラスか。目障りな!」

 先輩から手を離すと匠は弓をひっつかんで振り回し、襲ってくるカラスを振り払った。
 矢をつがえて、わずかに離れて飛び立とうとするカラスに狙いを定めた。


「やめて、兄さん」

 先輩の悲痛な叫びも虚しく。
 矢が放たれた。

 当たる。このままじゃカラスが死ぬ。
 だめだ。やめろ!カラスを殺したら、そんな事をしたら!
 生き物の気持ちに同調する先輩の心がこわれてしまう。

 思った瞬間、カッと身の内が熱くなった。
 俺を中心にあたり一面が輝きだし目を開けていられないほど真っ白になった。

 何が起こったのかわからなかった。
 再び目を開けると放たれた矢は地面に落ち、カラスはケガ負うことなく、バッサバッサと無事に飛び立っていく所だった。
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