第43話 菊留先生の憂鬱 その9

文字数 779文字

「そうですか。困りましたね」
「困るって何が?」

「この学校は評価点1があると留年なんです」
「えっ、マジ?」

「マジです」
「あいつ、それ知らないと思う。教えないと」

慌てる彼に言う。

「という訳で、近々彼女を説得する予定なので協力をお願いしますね」

彼はこの言葉が引っかかったらしくむくれた声で応じる。

「先生が俺に近づいてきた理由ってそういう事?」
「まさか、単に君と友達になりたかったからですよ」

「ふーん」

疑わしそうに私を見たが気づかないふりをしやり過ごす。

「そろそろ下校時間ですね。じゃ、今日のカウンセリングはこの辺でやめにしますか」
「えーっ、ただの雑談だったのに、カウンセリングとか」

「この部屋を使うときの理由は一応そうなってます」

椅子から立ち上がって窓を閉め戸締りとしようとする私に彼が言う。

「俺、もうちょっと先生と話がしたいんだけど」
「明日、伺いますよ」

畳みかける様に彼を追い出し私もカバンを持ってカウンセリングルームをでた。

「じゃ、また、明日、佐藤君、気を付けて帰るんですよ」
「せんせーのケチ!」

舌打ちする彼に笑顔で手を振って別れを告げ職員室に戻った。
小二時間、雑用かたずけてから同僚に挨拶をして帰路につく。
時計は8時を回っている。

この頃になるとさすがに夏でも暗くなる。
電車に乗り込み次の駅でおりた。
今日はいつもと経路が違う。

ストックしてある食料がなくなったので買い物をするために
スーパーやコンビニ、雑貨、ゲーセン、学習塾などなんでもある駅に降りたのだ。
飲み屋街も近いから、すれ違う人も学生やリーマンが多い。

明るい表通りから、ちょっと薄暗い通りに入る。スーパーはその先にある。
30分ほどメモを見ながら買い物してスーパーから出てくると入り口で声をかけられた。

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