第362話 アナザー 邂逅 その10

文字数 709文字

「高森 要には式を使わなかったくせに」
 息を切らしながら響が言った。
 最近、卒論のために部屋にこもりきりで走ってない。
 運動不足は否めない。

 対する裕也の言葉は滑らかだ。
 走りながら答えているとは思えない。
「うるさいなぁ。さっきも言ったよね? アイツラの生気はまずいって」

「あいつら?一人じゃないのか」
「うん。付近に五、六人はいる」

 夜のうちに応援を呼んだのか。
 ヤツラは本気で裕也を始末するつもりらしい。

 自分も応援を呼ぶべきなのか。
 正体不明の敵の力量がわからない以上そうすべきだと響は思った。
 走りながら響は内ポケットにある携帯に手をかけて、その手を抑えられた。

「裕也」
「応援は呼ばなくていい」
「どうして」
「降りかかった火の粉は自分で払う主義なんだ」
「でも、多勢に無勢だろ」
「あのくらい。どうってことない」

 後継者に決まる前のテストでさまざまな試練を課せられた。
 もっと多人数を相手にしたバトルもあった。
 湖北一ノ宮の当主という座は伊達ではないのだ。

「ここで僕を()るつもりなのかな」
「そう考えた方が妥当だ」

 実際、カフェで術をしかけられた。
 向こうに比べてこっちはたった二人だ。
 このまま何も起こらないわけがない。

「無関係な人間を巻き込むなんて最低だ」
「もう、巻き込んでるだろう。ヤツラに良心を期待しても虚しいだけだ」

 さっきのカフェで何人が巻き込まれてけがをしたんだろう。
 不用意に近づいた自分たちの落ち度か。

 皆、休日を楽しむためにこの場に来ているのに。
 その楽しみを奪うなんて、許せない。
 裕也は唇をかんだ。
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