第54話 菊留先生の憂鬱 その20

文字数 888文字

「笑いすぎです。佐藤君」
菊留先生は、軽く俺を睨んで注意する。
「……すみません」

続けて先生は智花の使った言葉。
(からす)の濡れ羽色』について英語で説明を始めた。
もともと国語教師なのだから知識はあるのだろうと理解できる。
だが、なぜこんなにもしゃべる英語に淀みがないのか。

教科書もみずにすらすらと英語をしゃべる。
先生は外国に住んでいた事でもあるのか。首をひねるところだ。

「Hi,Tomoka.(智花さん)The hair colour, NUREHAIRO OF CROW is used to admire the women's beautiful glossy black hair. Do not use it for men.
(烏の濡羽色 は女性の美しく艶めく黒髪を褒める為に使われます。男性には使いません)
 When you look at the crow's wings closely, you'll see that they are not only black but also glossy purple,blue and green.
(烏の羽をよく観たら、その羽根はただ黒いだけでなく艶めく紫、青、緑でもあると分かります)This is because...
 

ここまで説明して菊留先生は怪訝な顔で智花を眺めた。
それまで大人しく机に向かって先生の説明を聞いていた智花に変化が起きていた。
智花の体はまるで糸の切れた操り人形のように、不自然にかくんかくんと折れ曲がり、脱力した状態で机の上に突っ伏した。あまりにも突然だった。

「……これは、寝ているというより……」

先生は智花の手を十数センチ持ち上げて落としてみる。手はぱたりと机に落ちた。
隣に座っていた俺は別段に驚きもしなかった。これが授業中の智花スタイルだ。
智花は一時限終始このままで過ごし、終わりのチャイムと共に立ち上がって、皆と一緒に礼をする。
途中必死になって英語の坂田先生が起こそうとするが智花は全く反応しない。
この状態は中学の授業からで学校中で噂になり一種の名物になっていた。
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