第281話 アナザー 二人の高森 その89

文字数 581文字

「それから、茶道と書道も一緒になって?」
「うーん書道は一緒だけど、茶道は違う。私は茶道習ってたけど。
 先輩は武道館に通って弓道やってたよ」
「弓道?」
「うん、小学校5年くらいから、今は弓道部の部長だし」
「……そうなんだ」
 並行世界だと極端に違う事もあるのだ。
 頭の中でとっくに織り込み済みだったが、実際に違う事がわかるとやっぱりショックだ。
 学校も違うし、そんなに泉と行動をともにしてないなら意外と泉は先輩の事を知らないのかも知れない。

「高森君、先輩から聞いたんだけど」
「うん」
「先輩に笑ってほしいって言ったんだって?」
「……うん。言った。だって」

 こっちにいる間も俺は快適に過ごしたい。
 親しい人には笑顔で接して欲しいって思うだろ。
 それとも俺のこの要求は我がままなのか?

「凄い事いうなぁってほんと、感心しちゃった」
「えっ、そう?」
「先輩にそんな事言える人ってきっと高森君くらいだよ」
「……」

 ノックの音がして部屋の中に入ってきた看護師は泉を見て言った。

「あっ、泉ちゃん。」
「わっ、田中さん」
「また病院に入り込んで、今は、面会時間じゃありませんよ」
 看護師にたしなめられて泉は照れ笑いをした。
「てへっ、もう行くから、ごめんなさい。田中さん。じゃ、高森君、またね」
 それだけ言うと泉は病室を出て行った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み