第291話 アナザー 二人の高森 その99

文字数 634文字

 受け止めようとした正人より先に、義之が彼の体を念力(サイコキネシス)で支えた。

 目測を誤りスカを食らって正人は盛大にスッ転んだ。
 義之は裕也の体をそっと正人の隣に降ろした。
 心配そうに裕也は仰向けに倒れている正人を覗き込んだ。
「せんせい、大丈夫ですか?」

「……よーしーゆーきー」怒りで声が震えている。
 ガバッと起き上がった憤怒の形相の正人に、涼しい顔で義之は言った。
「一ノ谷君、礼を言われることはあっても叱られる覚えはありませんよ」
 実際、義之の言う通りだった。

 菊留義之がこの場に来なければ裕也も正人も女郎蜘蛛に食われていたかもしれないのだ。
「菊留さん。ありがとうございました。おかげで助かりました」
「礼を言うのはまだ早い。裕也君、はやくここから逃げないと、建物が倒壊します」
「えっ!」
 バキバキっと音がして天井が崩れ始めた。
 あばら家とは言えりっぱな梁を持つ古民家だ。
 落下物に当たればただではすまない。

 三人は這う這うの体で屋敷から逃げ出した。
 義之は先頭をきった。
 落ちてくる梁や天井を念力で粉砕しながら脱出経路を確保する。

 三人が屋敷の裏口にたどり着いた時には建物はほぼ倒壊していた。
 ゴミも分別する時代だ。がれきの山と化した古民家をみて正人はため息をついた。
「また、派手にやらかしたな。業者から怒鳴られそうだ」
「だから、言ったじゃないですか。ほんとにいいのかって」

 義之は不満げに正人を見やった。
 自分じゃ、まだ抑えた方だ。火災にならなかっただけましだと思って欲しかった。
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