第302話 アナザー 二人の高森 その110

文字数 543文字

「裕也君。契約ってどういうモノなのですか」
 義之は裕也に尋ねた。
 立ち上がって裕也は言った。

「僕と出会った時、悠斗君は成仏できず、人の魂を喰らう鬼になりかかっていました」
 十年間、何人もの人魂を喰らってこの世に留まり続けた。
 彼は鬼となっても兄の正人のそばにいたかったのだ。

「僕は彼が完璧な鬼人になる前に彼の願いをかなえ、
 代わりに自分を守護する者になってくれるように契約を持ちかけたんです」
 人を守護する者になれば鬼にならずに済む。

「その彼の望みとは?」
「彼に二カ月間生身の体を貸す事」
 その契約が今日完了すると裕也は言った。
「ほんとうか?悠斗」
 悠斗は眼を伏せてうつむいた。

「じゃあ、君が弟子になりたいと言ったのは」
「あれは本心です。僕は名ばかりの当主で実績も実力もない。
 高名な一ノ谷先生の弟子になり力をつけたいと常々、思っていました」
 正人は裕也を何も知らない高校生だと思っていた。

「はっ、なるほど、私はまんまと一杯食わされたわけだ」
「申しわけありません。でも僕は騙す気など毛頭なかったのです。
 お気に障ったのならお許し下さい」

「……お兄ちゃん。ごめんなさい、ぼく、どうしてもお兄ちゃんのそばにいたかったんだ」
「悠斗」
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