第340話 アナザー 護の笑えない理由 その24

文字数 790文字

「詫びる?なぜ、詫びる必要がある」
「いくら先輩のお兄さんでも言っていい事と悪い事がある」
「ほんとのこと言って何が悪い」

「夢見さんは交通事故で亡くなったんですよね。
 先輩のせいにするのはおかしいですよ」

「夢見が外出する羽目になったのは護が誘ったからだ。
 護が誘わなければ夢見は死ぬことはなかった」

 その言葉に反応して先輩は耐えきれないというように下を向いた。
 さんざん言われてきた言葉なのだろうか。唇が震えて。
 黒曜石の双眸がわずかに潤んだ様に見えて……。

「事故にあうかどうかなんて、外出してみないとわからない事でしょう?
 そんな事で先輩を責めるなんて馬鹿げてる」
「お前にはわかるまい。夢見には許嫁がいた。目論見が全部ご破算になった」

 許嫁?
 目論見がご破算?
 道具かよ。

「あなたは夢見さんに失礼だと思わないのか」
「名家に生まれればこんなものだ。女は家の為に結婚する」
「あんたの思惑なんて知らない。先輩に謝れよ!」
 俺は匠の腕をガシッと掴んだ。

「ほぉっ、なかなかの握力だ。だが甘い」

 匠は呟くようにそう言うと思いっきり腕をふりはらった。
 反動で腕から離れ壁に叩きつけられた。

「威勢のいい坊やだな。弱いくせにいきがって」
「うるせーっつ、お前なんかに先輩の兄を名乗る資格はない」

 限界だった。思わず匠を罵倒した。
 ズンとみぞおちに衝撃が走った。膝蹴りされた事がわかる。
「ぐっ」とうめいた。
 続いて顏に拳が飛んできた。
 どこか切れたらしく血の味が口の中に広がった。

「兄に資格は必要ない。早く生まれるか遅く生まれるかの違いだ」
 小ばかにしたような顔つきで角田匠は俺に言い放った。

 背中に手刀が落ちてきてみぞおちを蹴られ地面に叩きつけられる。
 一方的なサンドバック状態だ。
 そのまま踏みつけにされた。
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