第242話 アナザー 二人の高森 その50

文字数 715文字

「オレ、先輩が直してくれるまで何もしませんから」
「そう、なら勝手にすればいい」
「こっちの俺って、先輩に愛されちゃってるんですよね。なんだかやらしいなぁ」

 オレは尚も楽しそうに先輩を(あお)った。パシッと平手がオレの頬に飛んだ。
 オレはそれを受け止めた。先輩の手を掴んだままで言う。

「へぇ。先輩って怒ると手が出るんだ」
「誰だって、怒れば手がでるだろう」
 くすりと笑って(オレ)は言った。

「暴力なんてらしくないですよ。優等生の角田 護クン」
「お前に護クンなんて言われたくない」
 先輩は掴まれた腕を振り払ってそう言うと扉を開け、外に出てエレベーターホールに向かった。

「残念だな~。オレはもうちょっと先輩と話がしたかったのに」
「僕はお前と話すつもりはない」

 道中、先に立って歩く先輩はオレに追いつかれまいと次第に早歩きになる。

「学園のプリンスにつき従う侍従がいないとさすがにまずいでしょう?」
「侍従?僕は高森をそんな目で見たことはない」
「へぇ、そうですか」

 大通りに出ると先輩はさらに歩を速めて、道路側に手を上げた。
 目ざとく一台のタクシーがスイーッと寄って来て目の前に止まった。

「たかもり、一人で行け。僕はタクシーで行く」
「ちょっと、先輩、無責任じゃないですか」
「何が無責任だ」
「ああ、あの」
 オレは開いたタクシーのドアから中を覗き込んで運転手に話しかけた。

「すみません。やっぱ、歩いていくんで」
 断って力任せにドアを閉め先輩の腕を捉えた。
「ちょっと、放せよ」
「放しません」
「高森」

 タクシーが側から離れて行ったのを見届けて、オレは先輩の腕を離した。
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