第342話 アナザー 護の笑えない理由 その26

文字数 668文字

 俺は痛みに耐えて壁際に倒れている先輩のそばに歩み寄った。
 膝を折って手を伸ばしそっと首筋に触れた。
 脈はある。本当に気を失ってるだけの様だ。
 目じりに浮かんだ涙が痛々しい。

 近づいてくる足音にはっと顏をあげる。
 (こいつ)はまだ、先輩に危害を加えるつもりなのか!

 俺は立ち上がって身構えた。
 出来る限り油断なく、せめて最初の一撃がかわせるように。

 チカラが欲しい。
 大切な人を守れる力が。

 本気でそう思った。
 俺に秘めた力があるのなら、その力はどうすれば発動するのか。

 カラスを殺されるのが嫌で俺の力は勝手に発動した。
 狙った矢が折れて下に落ちていたから、俺自身の超能力で叩き落したんだろう。

 あの時に俺は何を思った?
 何を考えた?
 匠に対する怒りの感情と先輩の心が傷つくのを恐れて、切実に殺生をやめさせたいと思った。
 感情の強さが能力の発動条件になるのなら、今だって発動してもおかしくない。

 向こうの佐藤先輩はどう言っていたのか。
 オーラのひっこめ方は「体の中心に力を引き寄せるイメージで」
 なら……中心ではなく右手の中に凝縮させて。
 投げるならボールのような形にして。

 俺は鮮明な野球ボールを頭の中にイメージして、右の手のひらに神経を集中させ眼を閉じた。
 冷えた手の平が体温以上の熱を持ち熱くなってくる。
 手の周りにバチッと静電気が走った。

 軟式の野球ボールを持っているような感覚。
 握りこんだボールをそのまま振りかぶって、

 投げた。

 目の前にいた匠はいとも簡単に吹っ飛んだ。
 彼はその勢いのままダンという音とともに壁に叩付けられていた。
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