第267話 アナザー 二人の高森 その75

文字数 891文字

 予鈴が鳴った。
「わーっ、やばっ、智花、ダッシュダッシュ。早く教室にもどろうぜ」
 慌てて仁が叫んだ。
「あっ、ちょっとまってよ。佐藤君スピーチは?」

 ホームルームのスピーチは各担任の裁量によってやるクラスとやらないクラスがある。
 運悪く二人が所属する組の担任はやたら生徒にスピーチをさせるので有名は先生だった。
 パンと両手を合わせ仁は拝むように智花をみた。

「お願い、智花。スピーチ任せるからやって。俺何も考えてない」
「もう、前回は私がやったんだから今回は佐藤君でしょ」
「ごめん。智花、マジ勘弁」

 捨て台詞を残して仁はガラッと扉をあけ、自分だけさっさと教室に戻ろうとする。
「あっ、待ちなさいよ、佐藤君ってば」
 智花も仁の後をおっかけて部屋を出て行った。
 二人一組の行事の時はいつもペアになる。腐れ縁と言っていい関係だ。

「僕たちも行こう。担任が来る前に教室にいかないと」
 護の言葉に頷くアナザーな(オレ)に向かって要は言った。
『ちょっとまって、アナザーなオレ』
「なんだよ」
『俺の事、羨ましがらなくていいよ。俺も中学時代、人生が灰色だった。
 日記が5か月しかなかったのはそう言う事なんだ』
「……そうか。お前なりに苦労したって事かな」
『……うん』
「じゃ、もう行くわ。色々とお前の代わりつとめないと困んだろ」
『よろしく頼む。なるべく早く入れ替わるから』
「うん。わかった。じゃな」

 それだけ言うとアナザーな彼は護とともに部屋から出て行った。
 もう会う事はないだろう。要はこの世界に帰ってきた時点で彼と入れかわるのだから。

『先生、俺、もう大丈夫です。自分の体に帰ります』
 言い終わらぬうちに菊留先生の目の前にいた要は上を向くと、かき消すように消えてしまった。

 先生は目を見開いた。幽体の動きではない。要は瞬時に消えたのだ。
 呪をかけたままの移動なら姿は最後まで見えているハズだ。

 菊留先生は右手の指輪を二つ引き抜くとすぐ彼の後を追った。
 瞬間移動(テレポート)。高森要の体得した能力は五つ、残りは五つとなった。
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