第349話 アナザー 護の笑えない理由 その33

文字数 509文字

 俺は炎を出現させたまま、まだ床に座り込んだでいる匠の方を振り返った。

 匠は先輩に暴力を振るわない事を約束したが、 夢見さんの言葉だけじゃ不安だったので決定打になるものが欲しかった。そしてそれはいとも簡単に叶ったのだ。

 俺は半眼のまま匠を睨みつけて脅しの言葉を口にした。

「匠さん。俺はこんな事も出来るんです。今度、先輩を殴ったら容赦しませんよ。
 貴方の背中に醜いケロイドをつけて差し上げます」

 これ見よがしに匠の目の前に炎を差し出した。
 ゆらりとゆれる焔にあわてて匠は顏をそむけた。

「わ、わかった。許してくれ。もう二度と護に手をあげる事はしない」
「誓って、本当ですよね」

 俺は炎を伴ったままさらにズイッと間合いを詰め念をおした。
 匠はギョッとした顔で俺の顏を見上げた。


「本当だ。信じてくれ」

 それだけ言うと匠はあわてふためく様に弓道場から出て行った。
 俺はぱちんと指を鳴らして炎を消し、ため息を吐いた。
 実の所はったりに次ぐはったりをかまして俺の方が緊張していた。
 次もまた能力が発動するとは限らない。
 やっと緊張をといて、うつむいて座ったままの先輩の方へ顔を向けた。
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