第263話 アナザー 二人の高森 その71

文字数 799文字

 先生は俺を見て納得したように「うんうん」と頷いている。
 ニコニコして先生は言った。

「よく気が付きましたね。高森君、対処法は概ね正しいです」

「先生、対処法って……?」
「高森君のパラレルワールドに飛ぶ能力」

「えっ……角田に抱きつくのが正しい対処法?」
「そうですよ。」

「わけわからないんだけど……。」
 佐藤先輩は困惑気味に言った。

「いままで高森君に具体的なアドバイスをしなかったのは、
 高森君の能力が内面に特化したものだとわかっていたからです」
「内面?」

「そう。例えば佐藤君。君が死ぬほどこの世界が嫌いだったとしましょう」
「えっ、別に嫌いじゃないけど」
「例えばの話です」
「ああ」

「その時、君はどうしますか」
「逃げる。転校とか、家出とか、……自殺とか」
「そうですね。普通は現実的な手段を選ぶものです」

「でも、高森君は「平行時空」に飛ぶという形で現実から逃れる手段を得た」
「ええっ、それって高森は現実から逃げたいと思っていたって事?」
 佐藤先輩の問いに俺はこくりと頷いた。

「先生は知ってたんですか?」
「うすうすは」
「ふーん、そうだったのか……」
「平行時空に飛べるようになった原因。こればっかりは自分で気づくしかない」
「意地悪だな。先生は気が付くのを待っていたって事ですか?」

「そうです。気が付けたことで対処法もわかる。
 高森君は今、この世界に帰ってくるためのカギを手に入れた」

 俺は無言で頷いた。
「鍵って角田の事か。それってやばくね」
「やばいとは?」
「二人がホモにはしっ‼」

 智花が思いっきり仁に肘鉄を食らわせた。
「いってーっ、何すんだよ」
「もう、佐藤君、考え方がゲスなんだから」

「その心配はありません。高森君の好きはライクでラブではないんです」
 赤面する俺の横で先生は朗らかに笑って堂々とそうのたまった。
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