第159話 桜花恋歌 その18

文字数 584文字

「このかつぎ、綺麗だろう。今度の舞台衣装で」
「先輩」
俺は先輩のセリフを遮った。

「このかつぎ、夢に出てきました」
「……そうか。先生、高森の見た夢。何か意味のある事なんですか?」

先生はパソコンの電源を切って、ぱたりとディスプレイを閉じた。
「そう、意味のある事なんですよ。角田君」

そう言われて先輩はかつぎを衣桁(いこう)にかけ居住まいを正して先生の前に座った。
ようやく俺の夢の話をまじめに聞く気になったらしかった。

襖をあけ放たれて二間続きとなった部屋は二十畳、贅沢(ぜいたく)な作りだ。
角田家の使用人たちは呼ばれぬ限りははなれにやってくることはない。

部屋にいるのは四人だけ。相変わらず静寂が屋敷に満ちている。

「高森君の夢は、夢で片づけるにはあまりに生々しい。
 それに本来、高森君の知らない物が夢にでてくるじゃありませんか」
「……そうですね」
「人目に触れることの無い枝垂れ桜。舞台衣装。若い女、それに何より」
先生はコホンと咳払いをし銀縁眼鏡ごしの鋭い眼差しで先輩を見る。

「君自身がさっき、体感したのではありませんか?」
呪を投げつけられて背中に走った激痛。そして謎の数字。

「……」
「君の背中に書かれた数字は七です。おそらく桜の精に付けられた印。
 この数字が、月、日、時間のどれかを指しているのは確実でしょう」

「七カ月 七日 七時間……ですか?」
「君はその数字が示す時に桜の樹にかどわかされるでしょう」
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