第365話 アナザー 邂逅 その13

文字数 724文字

 二人をつけ狙う敵。
 それは、思いもかけない人物だった。
「あなたは」

 腰まである長い黒髪。一重の双眸と珊瑚の唇に白い肌を持つ妙齢の女性。
 白の着物と朱の袴を身につけた彼女は厳かにそこに立っていた。

 呟いた。
 うそだ。こんな事。

「葉月様。なぜ、貴女がここにいらっしゃるのですか?」
 響は信じられないと言った面持ちで言葉を発した。

「ご苦労でした。響、私のいいつけ、よくぞ守ってくれましたね」
「……裕也を、……私に当主を守れとお命じになったのは貴女だ。それなのになぜ」

「もうよいのです。下がりなさい。響」
「よいとはどう言う意味でございますか」

「響、貴方に任せて失敗したわ。こんなに長くかかるとは思わなかった。
 上手に逃げおおせてくれちゃって。さっさと死んでくれればこんな手間必要なかったのに」
「葉月様、私がしくじればよいと思っていたのですか?」

 尋ねる響をさえぎって裕也が言った。

「やっぱり、貴女だったんだ。葉月様。僕も甘いな」

 自分に毒を盛ったのは葉月付きの侍女だった。
 葉月が侍女を送り込んできた段階で気づくべきだったのだ。

「そんなに僕が邪魔なのかな?」
「ええ、邪魔よ。お前がいると兄さまが当主になれないわ。ここで死んでちょうだい」

「こんな事しなくても、当主の座くらいいつでも譲るんだけど」

 裕也は肩をすくめて見せた。
 もともと、葛城裕也は火属性の湖東一ノ宮の人間だ。
 先代の湖北一ノ宮の当主に請われて、いやいやながら当主の座についたに過ぎない。

「譲る?プライドの高い兄さまがそんな申し出受けるはずないわ」

「めんどくさい人だな」
「黙れ!兄さまを愚弄するのは許さない」
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