第305話 アナザー 二人の高森 その113

文字数 788文字

「なんでそうなるんですか」
「先生、僕、ちゃんと三人分買ってきましたけど」
「しっ、裕也君、コイツには親切にしなくていい」
 くそマジメな顔して正人は言った。
「お茶がもったいないんですよね。先生」
 裕也は笑いをこらえながら答えた。
「そのとおり」

「嗚呼、一ノ谷君のせいで裕也君の中の私の印象がドンドン悪くなってしまう」
「いいや、私のせいではなく元からお前は印象が悪い」
「どういう意味ですか」
「別に」
「先生、やっぱり、僕、お茶の準備をしてきますね」
 正人は笑顔で給湯室に消えた裕也を見送ると。

「義之、相談事とはなんだ?」
 二人、応接室のソファにすわってから至極、真面目な顔でたずねてきた。
「実は、例の竜穴の事なんですが」
「ああ」正人は「あれか」というふうな顔をした。
「あそこで結界を作ると消えてしまうんですがどうしたらいいですか」
「……義之」
「はい?」

 正人は義之の両肩をガシッと掴んでいった。
「まず、腕を磨け。話はそれからだ」
「はあっ?一ノ谷君、私は真面目にきいてるんですが」
「わたしもだ」
 不肖の弟子扱いされ、不満げな義之に正人は言った。

「最も、腕を上げた所で無駄だとは思うが」
「……からかってますよね」
「まあな」
「鬼守林の祠、だったよな。あそこは生きた竜穴だ。
 エネルギー量も多い。並みの陰陽師じゃ対処できないだろうな」

「生きた?では死んでいる竜穴とはどんなものを指すんですか」
「敷地内に水の無い状態、湧き水や川が枯れてしまった場合だな」
「……そうですか」

 向こうの世界から来た高森要はなんと言っていたのか。
 こちらの世界の竜穴の森は、あちらの世界で更地になっていたと。
 向こうの世界では竜穴が死んでいることになる。
 ならば彼は生きた竜穴のパワーに引っ張られてこっちにきたという事ではないのか。
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