第60話 謎の留学生 その2

エピソード文字数 1,667文字

心ここに在らずの俺の様子は、アレンの気に触ったらしかった。
アレンは俺の手首をつかんで手元に引き寄せると今度ははっきりとこう言った。

「君は僕の事を見ようとはしないんだね。今、探しているのは誰?
 ミスター・菊留?それともミス・大山?今、君と話をしているのは僕だ。ちゃんと僕を見て」
 
 穏やかだった口調は一転して怒気をはらみ、反応を伺うかのようにアレンは俺の顔を覗き込んだ。動揺を隠して俺は冷静に言葉を返す。

「……アレン、君は一体、僕の何を知ってるの?」
彼は、なぜ、先生や、智花の事まで知っているのか。
「それはだって、僕は君を見ていた。君という存在を知ってから、ずっと、ずっと君だけを見ていたんだ。だから、君の事は……」

俺は居たたまれなくなって、アレンの手を振り払った。
そのまま目を合わさずに教室を出て行こうとすると彼が叫んだ。

「仁、Tell Mr.kikutome.(ミスター菊留に伝えて)
My middle name is Lauren.(私のミドルネームはローレンだと)」

なんなんだ。あいつ。何が言いたい!
教室の周りにたむろするギャラリーをかき分けて通路を進み、ようやく階段にたどり着く。

俺は勢いよく階段を駆け下りると一階にあるカウンセリング室に駆け込んだ。
バンと音をたてて、思いっきりよく扉がしまる。
菊留先生がうんざりしたように声をかけてくる。

「佐藤君、廊下は走らない。扉は静かにしめましょう」

不機嫌な顔で部屋に眼を転じると、机に向かって智花が漫画を描いている。
会い向かいに座る菊留先生は分厚い本を読んでいた。
二人とも留学生のアレン・ホワイトには興味がないらしい。

「先生、あいつ、なんなんですか」
「はい?あいつ?」
「アレンですよ。アレン」
「ああっ、彼ね」
「彼ねじゃありませんよ」
「不機嫌そうですね。何かあったんですか?」
「あったも何も、あいつはー!!!」

状況説明できなくて言葉がのどにつかえる。
智花が漫画の原稿から顔をあげて椅子から立ち上がりいきなり、俺の眼鏡をぶんどった。
「あっ、智花!、返せよ眼鏡」
「やーよ」
その眼鏡を自分の顔にかけて言う。
「バレたんじゃない?だってこの眼鏡、伊達でしょ?」
智花は眼鏡をはずしてマジマジと眺めた。
「色は微妙に入っているけど、度は入ってないよね。」
「だって、入れる必要ないし、俺、両目とも1.5だし」
「じゃ、なんでかけてるのよ」

そう言いながら智花は眼鏡を返してきた。
「だって、校則にダメって書いてないし」
受け取った眼鏡をかけながら答える俺。
「確かに校則違反ではないですね」
そういう所はしっかり反応する菊留先生。

「ってか、お前そこまでは見てたの?」
「うん、抱き寄せられた所まではしっかりと」
思い出して、顏が赤らむ。
「っていうか。アレはほんとにハグなのか?なんか違うみたいな」
「違うでしょうね。でも、佐藤君はしっかり拒否ってましたね。」
「ってか。先生も見てたの?」
「はい、抱き寄せられた所まではしっかりと」
「助けてくれればよかったのに」
「助けは必要なさそうでしたから」
「俺、いいさらし者だったんだけど」
「明日は超有名人だよね、あそこに腐女子軍団いたし」
智花がさも面白そうに言う。

「……菊留先生」
「何ですか?佐藤君」
「あいつは俺の事知ってた。サイキックだって」
「……」
「それから、先生に伝えろって」
「何をですか?」
「アレンのミドルネーム」
「ミドルネーム?」
「My middle name is Lauren.(私のミドルネームはローレン)」

先生は眼を見開いて椅子から立ち上がった。
「本当にそう言ったのですか……ローレン、そんな……まさか」
机に両手をついて頭をがっくりと落とす。
「そんな、馬鹿な事……」

言葉を失った先生は沈痛な面持ちでそこに立ち尽くしていた。
先生の深刻ぶった様子に俺達は顔を見合わせた。
暫くの間、部屋は沈黙を保った。
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