第161話 桜花恋歌 その20
文字数 737文字
「一年前、お姉さんを亡くして、生きる事に絶望していた君の唯一の拠り所はあの桜の樹だった」
「はい。そうです。週末はいつも別荘で過ごし死ぬことを切望しました。あの桜の樹に願って。でも、そんな時に先生に出会って、僕は死ぬのをやめようと思ったんです」
「ちょうど、その頃、高森君にも出会ったのでしょう?」
「高森が同じ塾に入って来て。僕は嬉しかった」
「同じ学年ではなく、同じ学校でもないのに?」
「あっ、そうだよ。角田先輩。なんで俺、先輩に気に入られてるのか。
ぜんぜん分かんないんだけど」
俺は先生と先輩の会話に割って入った。俺が先輩に気にいられた理由。
それは今でも、俺の中で最大の疑問符だった。
先輩の瞳が瞬いた。奥二重の双眸がガラスのように煌めいて俺を見る。
「高森……」
「だって、先輩、前から俺の事知ってたみたいな感じで」
「覚えてないのか……蝉のお墓」
「……せみ?」
「覚えてないならいいんだ」
俺、何か大事な事を忘れてる?何だ、蝉って。
「勿体 ぶらないで教えて下さいよ。角田先輩」
「……いや、いい」
先輩は気落ちしたかのように黙りこくった。
「角田君、週末ごとに会いにくる君が、ある日を境にほとんど桜の樹を訪れなくなり、たまにくれば一人の男の子の話しかしない。桜の精はどう思うでしょうか」
「だって先生、桜の樹ですよ。……ぜんぜん種が違うじゃないですか」
「妖にそんな言い訳が通用しますか?」
「……わかりません」
「妖となったモノに男女や、種族の差など意味のない物です。ただ気に入ったら、自分のモノにしようとする純粋な意識」
「先生」
「君はそういうモノに魅入られたのですよ」
先生は深呼吸してから先輩にそう告げた。
「はい。そうです。週末はいつも別荘で過ごし死ぬことを切望しました。あの桜の樹に願って。でも、そんな時に先生に出会って、僕は死ぬのをやめようと思ったんです」
「ちょうど、その頃、高森君にも出会ったのでしょう?」
「高森が同じ塾に入って来て。僕は嬉しかった」
「同じ学年ではなく、同じ学校でもないのに?」
「あっ、そうだよ。角田先輩。なんで俺、先輩に気に入られてるのか。
ぜんぜん分かんないんだけど」
俺は先生と先輩の会話に割って入った。俺が先輩に気にいられた理由。
それは今でも、俺の中で最大の疑問符だった。
先輩の瞳が瞬いた。奥二重の双眸がガラスのように煌めいて俺を見る。
「高森……」
「だって、先輩、前から俺の事知ってたみたいな感じで」
「覚えてないのか……蝉のお墓」
「……せみ?」
「覚えてないならいいんだ」
俺、何か大事な事を忘れてる?何だ、蝉って。
「
「……いや、いい」
先輩は気落ちしたかのように黙りこくった。
「角田君、週末ごとに会いにくる君が、ある日を境にほとんど桜の樹を訪れなくなり、たまにくれば一人の男の子の話しかしない。桜の精はどう思うでしょうか」
「だって先生、桜の樹ですよ。……ぜんぜん種が違うじゃないですか」
「妖にそんな言い訳が通用しますか?」
「……わかりません」
「妖となったモノに男女や、種族の差など意味のない物です。ただ気に入ったら、自分のモノにしようとする純粋な意識」
「先生」
「君はそういうモノに魅入られたのですよ」
先生は深呼吸してから先輩にそう告げた。