第256話 アナザー 二人の高森 その64

文字数 942文字

 (うらや)ましくて、羨ましてくて仕方がない。
 友達同士の何気ないじゃれ合い。
 ごくごく普通の日常の会話が、楽しそうで、嬉しそうで。
 どうすればオレもその輪の中にはいっていける?
 彼はいつも自問していた。

 その輪の中に加わりたくて加われなくて、いつも……。
 だから自分の心に嘘をついて、羨ましくないと言い聞かせてきた。

 心がどんどん冷えていくのを自覚しながら、それでも、あきらめられない羨望。

 胸が痛い。

 俺は佐藤先輩のそばへ寄り、耳元で小さく囁いた。
『ふーん。わかった。でも高森、なんでソレ直接、角田に言わないんだ?』
 先輩は俺にテレパシーで話しかけてきた。

『たぶん、俺が言ったらだめなんです。頼みます。佐藤先輩』
「楽しそうに何話してるんですか?僕にも教えてくださいよ」

「角田、こっち」佐藤先輩は角田先輩の手を取ると二人一緒にくるっと後ろを向いた。
 そして、小さく耳打ちした。

「えっ、なんで、そんな事、嫌ですよ」
『角田、お前の大好きなワンコのたっての願いだぞ』

 テレパシーで言葉をかけられてまずいと思ったのか、
 角田先輩も声に出さずに思考で話しかけてきた。
『高森!どういう事だ』
 ぴりりとこめかみに信号が走る。思考は佐藤先輩が中継してくれている。

 俺は角田先輩を、じっと見つめた。
『うっ……そんな捨てられた子犬の様な目でみるな』
 見るなと言われても手をあわせ、上目づかいで双眸に力を込めた。
 何気に瞳がうるんでくる。

『ううっ……わかった。わかりましたよ。……やればいいんでしょう』
『そうそう、ワンコの願いをかなえるのもご主人様の仕事だゾ』

 うれしそうに茶化す佐藤先輩。
 こういう所がなければとてもいい先輩なんだけど。

 談合がまとまりオレをみると彼は菊留先生と真剣に話をしていた。

「理解できない。コイツはオレなのに、なんでこんなに考え方に差がでるんだ」
「育ってきた環境の違いでしょうね」
「……そうなのか……」

 (オレ)(こうべ)を垂れた。
「やっぱり、君も高森 要君なのですね」

「どういう意味だよ」
「根は素直じゃないですか」

 彼は指先で目じりに浮かんだ涙を拭った。
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