第124話  泉と先生との出会い その1

文字数 865文字

泉加奈子は私立開成東高の授業の速さに辟易していた。にも関わらずとりあえずエリートが集う学校で学年真ん中の成績をキープしている。
当然、予習復習に余念がない。
今日も今日とて、
『水のpHは温度によって変化する。
純粋な水は25℃のときpHは7となるが,温度が変化するとpHは7にならない。
水の電離平衡は次のような式で表される。 H2O⇄H++OH–となる』

などと、科学の本を片手にぶつぶつと口の中で暗唱しながら階段を降りていくと踊り場でドンと人にぶつかってしまった。

「ごめんなさい。あの、私ぼんやりして……」
「No problem.(問題ない)気にしないで」

咄嗟の英語に思わずドン引きし本から顏を上げてぶつかった相手に急いで謝罪すると、プラチナブロンドの髪に(すみれ)色の瞳をした彼は人懐っこい笑みを浮かべてこう言った。

「はじめまして、泉加奈子さん。君はとても勉強熱心なんだね」
「あの、どうして、……私の名前知ってるんですか?」

大きな瞳をぱちぱちさせて、ドギマギしながら泉は尋ねた。不思議でしょうがなかった。
自分は今年入ったばかりの新入生。
片や学校でただ一人の西洋人の彼は一挙手一投足が全校生徒の注目を浴びる有名人であり、今年受験を控えた3年生だ。どう考えても接点がない。

「あの、……アレン・ホワイトさん?」
「うん、アレン・菊留・ホワイトだよ」

「……菊留?」
「うん。そう」

「もしかして開成南の、菊留……先生のお知り合いですか?」
「うん、……ちょっと違うかな」

「じゃあ、何なんですか」
「SON」

「エッ、SONって……つまり、む・す・こ?」

いやっ、まさか、だって彼って確か高3、高3って確か17か18?
菊留先生って今年で27とか言ってたような……まさか9か10歳の時の子供?
いくらなんでもありえない。
それとも、先生って日本の常識を打ち破る超ませがきだったの?

「義理のだけどね」
あーっ、驚いた。
一瞬、心の中で思いっきり先生の事を罵倒及び軽蔑してしまった。
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