第100話 先生のフィアンセ その23

文字数 494文字

しばらくして孝雄はぴたりと泣くのをやめた。

「今の話。聞いておったな」
「へいっ、出入(ケンカ)りですね。おやっさん」

孝雄の払った右手が幹部の顔にヒットした。
「バカたれ!なるたけ穏便にすませるんじゃ。穏便に」
「へっ、へいっ。穏便ですかい」
痛がりながらも返事をする。
いつもとは真逆の指示だ。

「弘明の友人とやらが壊したビルは子会社の都築建設に全部直させろ。費用はこっち持ちでな」
「へい」

「誠道会に詫びをいれて、それからアレン・ホワイトという青年の身柄をこちらで引き取りたい旨を伝えろ」
「へいっ」

「顧問弁護士の中川を使え。それでうまくいくだろう」
「承知しやした」

自分がその場を辞した後、そんなやり取りがなされているとは知らない藤堂弘明は例の黒塗りの外車を運転してカーレンタル店を訪れていた。

弘明に外車を乗り回す趣味はない。この仰々しい高級車はただの借り物だった。
そこで自分の軽自動車に乗り換えコートを脱いでオールバックに整えた前髪をもとに戻した。
素の自分に戻ってようやく息をついた。

「はあーっ、緊張した……」

いつもながらに疲れる対面だ。
それにしても、お見合いだなんて、困った事になったと改めてそう思っていた。
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