第131話 泉と先生との出会い その8

文字数 848文字

 
泉が躊躇してる間に料理ができあがったらしい。
厨房のほうからやってきた店員は料理をテーブルの上に置いて言った。
「ご注文はお揃いでしょうか」
「はい」
「どうぞ、ごゆっくり」

それだけ言うとテーブルのそばを離れていった。
目の前に出されたトレイを見る。

「えっつ!!……コレ」
「お嫌いですか?レバニラ炒め」

前言撤回だ。なんでよりによって……レバニラ炒め。
レバーなんて大嫌いだ。
泉は菊留先生をいい人だなんてちらっとでも思った過去の自分を殴りたい気分になった。

「泉さん、慢性の貧血でしょう?だから、レバニラ炒めを頼んだんです」
笑顔で言う先生の顔の憎らしい事。
「あの、私、レバー嫌いなんですけど」
貧血だから、レバーっていう発想がわからない。
「何でもするっていいましたよね」
笑顔のままでさらに先生は言う。
「どうぞ、遠慮なく召し上がって下さい」

「うっ……」
言った。確かにいいましたとも。
箸を取って手を合わせた後、涙目のまま、しぶしぶ口に運ぶ。
……アレッ?レバー独特の生臭さはあまり感じない。
ちゃんと血抜きがしてあるらしい。
結構いけるかも。
うん、……美味しいような気がする。

「意外と食べれるものでしょう?
 豚のレバーは鉄分をたくさん含んでいるから貧血にいいんですよ」

少しづつ箸が進んでいく様子を見て先生が嬉しそうに笑う。
他人の事なのに自分の事の様に喜ぶ先生がなんだかちょっと面白い。
なんら違和感なく食べれる事に自分のレバー嫌いはただの、食わず嫌いだったのかしら。
と奇妙な錯覚さえ湧いてくる。
でも、でも、やっぱ家で出されるのは嫌いだな。
だって、おいしくないし。

「先生って変な人」
「はい、よく言われます」
「私、開成南、うけよっかなー。先生と一緒なら三年間楽しそう」
「どうぞ、お待ちしてます」

おせっかいを絵にかいたような先生。
泉はすっかり菊留先生と友達になったような気がしていた。
当の本人の気持ちはもっと別な所にあったのだが。
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