第74話  先生(リサーチャーフェイバリット)の実力 その9

文字数 976文字

後の方で扉の閉まる音がする。
暴力団のボスと配下の者が部屋からいなくなった気配がする。
「お久しぶりですね。クレイジー・グローム」
それを意識しながらも先生は、躊躇せず忌み名を口にする。

「懐かしいわね。そのあだ名。リアム、本当に久しぶりね」
「私は会いたくなかった。よもやあなたが女性に転生しているとはね。驚きですよ。教授」

答える先生は教授と眼を合わせようとはしない。視線は床に落としたままだった。
「佐藤君が攫われてからずっと考えていたんです」
「何を?」
「あなたがなぜ、過去に執着するのかを」
「それで?答えはでたの?」
「ええっ。」と先生は答える。

「私が死んでから、貴方は自分に薬を投与した。違いますか?」
ようやく、先生は視線を教授に移して問いかけた。

「ええ、そうよ。リアムが死んで研究員がどれだけ失望したか。あなたにはわからないでしょうね」

「私に何ができたというのです。私は15の子供でしかなかった。それもただの実験体でしかなかったのですよ」
「ええ、そう、リアムに罪はないわ」
彼女はくすっと笑う。
「過剰に薬を投与した私の責任」
そして謳うように言った。

「生まれ変わってからやっと気づいたのよ。私の作った薬は前世の記憶を定着させるものだった事に」
教授はくるくるとワルツのステップを踏んで楽し気に言う。

「こんな素晴らしい薬はないでしょう?リアム。生まれ変わる度に前世の記憶が蓄積されていく。人間はこの薬で莫大な量の知識を脳みそに蓄える事ができるのよ。これぞ究極の超人を作る薬なのよ」

教授のいう事は理解できる。
先生の英語が堪能なのは現世で必死になって勉強したからではない。
当たり前のように前世で英語をしゃべっていたからに他ならなかった。

だが、実験動物であった時の辛い記憶まで、現世の自分の中に残るのがはたしていい事なのか。
人によっては発狂するのではないのか。素直にグローム教授の意見には賛成できない。

「お陰様で私は今でも、サイキックですよ。教授」
皮肉を込めて先生は言う。

「そうよ。リアム、感謝なさい。私のおかげで貴方は超能力者のままで転生できたのよ。だから、再び私の研究の為に役に立って頂戴」

バチッと教授の周りに火花が散った。
びくりとして教授は身を縮める。それが先生の答えだった。
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