第396話 アナザー 護と要 その9

文字数 752文字

「信じられません。彼がそこまでするなんて。
 ……角田君にとって君は特別な存在という事なんでしょうね」

「信じられないかも知れないけど、でも、ほんとなんです」
「そうですか」

 先生は暫く考えこむ様に口を閉じた。

「……そう言えば君が刺されたのは角田君をかばったからでしたね」
「はい」

 俺はキッと顏を上げた。
「……先生、俺、先生に聞きたい事があるんですけど」
 どうしても確かめたい。

「なんですか?高森君」
「先生は角田先輩がお兄さんから虐待を受けていたのを知ってたんですか?」

 俺はこの世界に来てから日が浅い。
 先輩の家の事情はこちらの先生の方が知っているはずだ。
 俺の問いに先生は眼を見開かせた。

「虐待?いいえ。初めて聞きました。」
「知らなかった?酷かったんですよ。腹違いの兄に殴られて言葉で脅されて」

 責めるような口調になった。
 向こうの菊留先生なら絶対放っておかないだろう。
 ふつふつと怒りが湧いてくる。

「……そうだったんですか。全く気が付きませんでした」

 俺は歯噛みしたい思いでその言葉を聞いていた。
 なぜ、今まで知らなかったんだ?
 どうして先生はあんなひどい状況を放置していたんだ。

「彼は私に相談してくれませんでした」
「でも、先生は超能力者なんですよね。先輩の心を読むのは簡単でしょう」
 俺は畳みかけるように言った。

「私は学校にいる間、人の心を読まないようにいつも指輪をしているので。
 彼の心を知りようもなかった」

 何てことだ。
 俺がこの世界にこなければ、先輩はいつまでもあの状況だったって事か?

「それで、問題は解決したのでしょうか」
「はい、俺が間に入って虐待をやめさせました」

「……それはよかった。ありがとう。高森君。
 ほんとうなら私がすべき事を代わりに君がしてくれたのですね」

 先生は素直に礼を述べた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み