第194話 アナザー 二人の高森 その2

文字数 772文字

先輩と別れた後。午後から始まる超人クラブの集会までまだ間がある。小腹がすいていた。
俺は某スーパーでお茶とおにぎりを買ってレジに並んだ。

「お会計は528円になります。」
と言われて財布の中を見ると2000円札しかなかった。
滅多に見ない札だから最後まで残しておいたのだがレジに差し出した途端、店員は訝し気な顔をして札をじろじろと眺めてから「少々、お待ちください」と言って店奥に引っ込んでいた店長を連れてきた。

「君?ちょっと、コレ、偽札だよね。警察呼ぶからこっち来て」
レジにならんでいた周りの人々がざわめいた。

「ちょっと待ってください。あの、偽札って」
滅多に見ない札でもれっきとしたお札だ。店長は2000円札も知らないのかと思った。
無理やりバックヤードに連れていかれそうなる。
抵抗しながら
「あの、これ、お札ですよね。随分前に発行された」
救いを求めて周りを見るが皆がかぶりをふっている。
困り果てていると助け船が現れた。

「アラッ、嫌だわ。店長さん」

あっ、泉?この声は泉の声だ。はっと顏をあげそちらを見る。

「これ、この間の美術の課題で作った架空のお札なんです。
 彼、美術部員なんですよ。上手でしょう?」

顏は確かに泉だった。だが、髪は前髪がカットされたセミロングのヘアじゃなく、ワンレングスの長い髪に変わっている。

なんとも、嫌な予感しかしない。
泉は凝視する俺の視線におかまいなしに店長と会話している。

「えっ、これ、美術の課題?それにしてもリアルだな。ちゃんと日本銀行券って書いてあるぞ」

「はい、クオリティにこだわりました。表は守礼門、裏は光源氏、あっとこれ誰だっけ。こっちは紫式部が描いてあるんですよ」

泉は表の守礼門をゆび指し、裏を返して描かれている人物を説明する。
実に淀みない説明だった。
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