第361話 アナザー 邂逅 その9

文字数 642文字

「響」
 裕也が言った。
「なんだ」
 と響は聞き返した。
「地震のとき、建物の外にいる人がやってはいけない事は」
「ビルの側に近づかない事」
「正解!」

 カフェにいた男は何事か唱え。
 指で五芒星を描き出し印を結んで。

「界を隔てよ。結!」
 裕也の方が早かった。
 唱えた呪は二人を守る結界を出現させた。

 パンと音がして、カフェと道路を隔てていたガラスにクモの巣状のひびが入り細かく割れた。
 それは裕也のはった結界にいくつもの凶器となって突き刺さった。
 すべてのガラスが刺さり切った所でふたりは踵を返し結界の外に出た。
 同時に結界は消失しガラスはすべて二人の後ろで、
 ガシャン、ガシャン、ガシャンという音をたてて地面に落ちた。

「なぜならガラスが落ちてくるから」
 と裕也は続けた。

「裕也、葛城一門は一般人に迷惑をかけない方針じゃなかったのか?」
「そうなんだけど、僕がいない二か月の間にどうやら、趣旨替えしたらしい」

 カフェの店内には悲鳴が響き、混乱した客が右往左往している。
 身の危険を感じたのか。
 例のリーマンはその場から綺麗に消え失せていた。

「ちっ、やられた。追え、裕也」
「やだよ。アイツラの精気、まずいもん」
贅沢(ぜいたく)言ってる場合か」
 響に窘められて裕也はため息をついた。

「わかった。やってみる」
 裕也は観念したように呟き、そばの植え込みにはえていた樹木の葉っぱを、数枚つんで口元で呪を唱え風に散らした。
 葉っぱは小さな小鳥になり空に舞い上がった。
 追跡用の式神だ。二人は小鳥の跡を追って走り出した。
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