第53話 菊留先生の憂鬱 その19
文字数 1,639文字
菊留先生はやおら英語で話し始める。
OK!Let's study English together.
I'm KIKUTOME. I'm a Japanese high school teacher.
Sing together.Momotaro san.
Then, he met a dog.(その後、彼は犬に会った)
Hello. What is your name, sir?(サー、あなたの名前は何ですか。)
My name is Momotaro.
♪♪♪
Momotaro san, Momotaro san. Can you give me Kibidango?
桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたキビダンゴ、一つわたしに 下さいな。
Then I will go to Onigashima.
鬼ヶ島に進みます。
♪♪♪
Here you are. Here you are.
You can have my Kibidango. Now, let's go to Onigashima.
♪♪♪
やりましょう やりましょう。
これから鬼の征伐に、ついて行くならやりましょう。
♪♪♪
何、コレ「桃太郎」?
馬鹿にしてるの?この先生は。
ガタンと椅子から立ち上がって大山智花は叫んだ。
「先生、眠くなる以前に非常に不愉快なんですけど」
隣の佐藤仁は菊留先生の始めた講釈が「桃太郎さん」だと気が付いて、また笑いをかみ殺し口元に手をやり顔を伏せている。
「私を馬鹿にしてるんですか?これって小学生レベルでしょ」
智花は気色ばんで眉を吊り上げる
「……やっぱり、智花さん、貴女は英語が全く分かってないわけじゃないんですね。」
智花はギクリとして先生を見る。
「イヤですわ。先生ったら。私、英語はぜんぜんわかりませんの。入試の成績はご存知でしょう?」
繕う智花に先生は言う。
「じゃあ、なぜ、桃太郎だとわかったんですか」
「だって、音楽が、いや桃太郎って言葉がでてくるじゃないですか」
「……そうですね」
何か言おうとする智花に先生は重ねて言う。
「智花さん、前から不思議だったんですがなぜ、英語を勉強しようとしないんですか。」
「英語なんて日本で暮らす以上、覚えなくてもいい言語だと思います。」
きっぱりと断言する智花。確かに一理ある。
だが、ここで納得しては教師が廃ると思い更なる説得を試みる。
「でも、智花さん、例えば、コンビニでバイトしたとして、外国人に握りずしを温めてって言われたら『温めなくていい』事を伝えるのに英語能力って必要でしょう?」
「素直に温めさせればいいじゃないですか。」
「何を言うんです。日本文化が間違って伝わったらやっぱりいやでしょう」
「別に平気です。第一、先生、前提が間違っています。私はコンビニでバイトするつもりはありません。」
「あっ、そうですか」
「コンビニバイトより、巫女さんのバイトで社務所でおみくじ売ってた方がましです。」
寺の長女だからなるほど、巫女さんの衣装は似合うかもしれない。
って感心してる場合じゃない。
「じゃあ、例えば金髪碧眼の青年を好きになったら、意思疎通を図るためにやっぱり英語って必要ですよね」
「金髪碧眼って今時、和製(金髪に染めたカラコン)の人いますよね」
「えっ、ああっ」
「大丈夫です。先生、金髪碧眼を好きになる事は二万パーセントありません。」
智花はにっこり笑って、どこぞの政治家の言葉を引用する。重ねて彼女は言う。
「私は烏の濡れ羽色の黒髪と黒曜石の瞳を持つ凛々しい日本人男性が好きなんです」
取り付く島もないとはまさにこの事だった。
佐藤仁は終始押され気味の菊留先生を見て、ひとり笑っている。
どうにも旗色が悪い。仕切りなおさなくては。先生は彼をたしなめるためにわざと咳払いをした。
OK!Let's study English together.
I'm KIKUTOME. I'm a Japanese high school teacher.
Sing together.Momotaro san.
Then, he met a dog.(その後、彼は犬に会った)
Hello. What is your name, sir?(サー、あなたの名前は何ですか。)
My name is Momotaro.
♪♪♪
Momotaro san, Momotaro san. Can you give me Kibidango?
桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたキビダンゴ、一つわたしに 下さいな。
Then I will go to Onigashima.
鬼ヶ島に進みます。
♪♪♪
Here you are. Here you are.
You can have my Kibidango. Now, let's go to Onigashima.
♪♪♪
やりましょう やりましょう。
これから鬼の征伐に、ついて行くならやりましょう。
♪♪♪
何、コレ「桃太郎」?
馬鹿にしてるの?この先生は。
ガタンと椅子から立ち上がって大山智花は叫んだ。
「先生、眠くなる以前に非常に不愉快なんですけど」
隣の佐藤仁は菊留先生の始めた講釈が「桃太郎さん」だと気が付いて、また笑いをかみ殺し口元に手をやり顔を伏せている。
「私を馬鹿にしてるんですか?これって小学生レベルでしょ」
智花は気色ばんで眉を吊り上げる
「……やっぱり、智花さん、貴女は英語が全く分かってないわけじゃないんですね。」
智花はギクリとして先生を見る。
「イヤですわ。先生ったら。私、英語はぜんぜんわかりませんの。入試の成績はご存知でしょう?」
繕う智花に先生は言う。
「じゃあ、なぜ、桃太郎だとわかったんですか」
「だって、音楽が、いや桃太郎って言葉がでてくるじゃないですか」
「……そうですね」
何か言おうとする智花に先生は重ねて言う。
「智花さん、前から不思議だったんですがなぜ、英語を勉強しようとしないんですか。」
「英語なんて日本で暮らす以上、覚えなくてもいい言語だと思います。」
きっぱりと断言する智花。確かに一理ある。
だが、ここで納得しては教師が廃ると思い更なる説得を試みる。
「でも、智花さん、例えば、コンビニでバイトしたとして、外国人に握りずしを温めてって言われたら『温めなくていい』事を伝えるのに英語能力って必要でしょう?」
「素直に温めさせればいいじゃないですか。」
「何を言うんです。日本文化が間違って伝わったらやっぱりいやでしょう」
「別に平気です。第一、先生、前提が間違っています。私はコンビニでバイトするつもりはありません。」
「あっ、そうですか」
「コンビニバイトより、巫女さんのバイトで社務所でおみくじ売ってた方がましです。」
寺の長女だからなるほど、巫女さんの衣装は似合うかもしれない。
って感心してる場合じゃない。
「じゃあ、例えば金髪碧眼の青年を好きになったら、意思疎通を図るためにやっぱり英語って必要ですよね」
「金髪碧眼って今時、和製(金髪に染めたカラコン)の人いますよね」
「えっ、ああっ」
「大丈夫です。先生、金髪碧眼を好きになる事は二万パーセントありません。」
智花はにっこり笑って、どこぞの政治家の言葉を引用する。重ねて彼女は言う。
「私は烏の濡れ羽色の黒髪と黒曜石の瞳を持つ凛々しい日本人男性が好きなんです」
取り付く島もないとはまさにこの事だった。
佐藤仁は終始押され気味の菊留先生を見て、ひとり笑っている。
どうにも旗色が悪い。仕切りなおさなくては。先生は彼をたしなめるためにわざと咳払いをした。