第205話 アナザー 二人の高森 その13

文字数 657文字

「なんだか、めっちゃ憎まれてるような気がします」
「ああ、角田の無愛想は前からだ。気にするな」

こっちの世界の先輩は無愛想なのか。向こうの世界では人当たりのよい好青年なのだが。
そう言われても気になる。あからさまな敵意。
いくらこちらの世界の俺の素行が悪くったって、他の高校に通っているのなら生活面で接点がないはずだ。ついつい憎まれる理由はなんだと考えてしまう。
そんな俺の気持ちに気がつかないふりを装い先生は質問してきた。

「高森君、君がこちらに来た理由。原因はなんだと思いますか?」
「……わかりません」
「どこでこの世界に通じる扉が開いたと思いますか」
「……わかりません。俺が平行世界に移動するときはいつも、なんの前触れもないんです」

「手がかりなしですか」
「スーパーのレジで偽札だって騒がれた時にようやく気がついたんです」
「レジ……ね」
先生は首をかしげた。

「ではその前にしめ縄とか鳥居をくぐった記憶は?」
「……なかったと思います」

鳥居やしめ縄は神界と俗界を区切る結界だと前の世界の先生が話していた。
だから、異空間に通じる可能性はあるのかも知れないが、生憎そんなものをくぐった記憶はない。

先生は持参したキャリングバッグからパソコンを取り出すと電源をつないで画面を立ち上げた。
タブレットタイプの最新機器だ。画面を本体から外してテーブルの上に置き秋津市の全貌が見える地図を検索して画面に表示させた。
家の位置を聞かれて白物家電を扱う量販店の名前を告げその近くだと答える。
先生はそこを起点に地図を拡大し俺の今日一日の足跡を訪ねてきた。
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