第253話 アナザー 二人の高森 その61

文字数 921文字

「君は自分とは正反対の考え方をする要君の日記を読んで、彼をうとましく思った」

「だって。なんだよ。コイツ、聖人君子みたいな。天使みたいな穢れのなさそうな日記を書いて、ほんと、イラつくんだけど」

「君はそういう生活が送れなかったんですか?」
 彼はぐっと拳を握って唇を引き結んだ。

「……ああっ、そうだよ。だって、オレは」

 芸能人だ。芸能界は妬みと嫉妬の渦巻くこわい世界。
 年功序列で大御所にはこびないといけないし、人を蹴落とすのが当たり前の世界にいた。

 演劇の稽古に時間は取られるし、なまじ子役で人気が出たから、生活面でいろんな制約をうけた。同時に嫌がらせも、当然、学校でイジメも発生した。

 だから安穏と普通に生活してる奴をみたらイラついた。
 オレはこんな目にあってるのにナンデコイツラハ……。

「そういうの……羨ましいって言うんだよ」
 畳みかけるかけるように佐藤仁は言った。

「……うそだ」
「彼はアナザーの君にないものを持っている。それがとても羨ましいのでしょう?」
 菊留先生が追い打ちをかけるように言った。

「違う。羨ましくなんかない」
「へぇ、羨ましくないねぇ」

 言いながら佐藤 仁はかけていた眼鏡をはずして折りたたみ、カッターのポケットにつっ込むと一重の切れ長の双眸でオレをじっとみつめた。

 羨ましいわけないだろ!
 なんでオレがコイツを羨ましがる必要がある?

「オレはコイツより頭いいし、世渡りうまいし、喧嘩だって強い。
 友達だってたくさんいる。オレのツイッターはフォロアーが五千人越え」

「五千人、ふーん。そいつらとリアル友達なの?」
「ちげーけど」

「だから」
「だから?だから何だよ。
 まさか、それがすごいとか、偉いとかっていうつもりじゃないだろ」

「うるさい、とにかく、オレはコイツより優れてるんだよ」
「でも、お前の心は高森が妬ましくて仕方がない」

「そんなんじゃない」
「なんで高森が人から好かれてるのか不思議でしょうがないって顔してる」

 オレの考えている事を言い当てる佐藤 仁。
 超能力者っていうのは人の心にずかずか土足で踏み込んでくる。

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