第300話 アナザー 二人の高森 その108

文字数 692文字

 義之は中指で眼鏡のフレームを押し上げて目を細めた。
「全くえげつない。貴方は私の嫌いなものを良くご存じだ」
 一際大きな岩のそばに人影がみえる。
 それは地面に横たわった桂木裕也だった。

 ……裕也を守って戦えという事か。

 あれほど、裕也の事を心配していたのになんという豹変ぶりだろう。
 衰弱している彼をわが身を守る盾に使うとは、軽蔑に値する行為だ。
 本来の彼とは違う所業に義之は解せないという顏をした。
 正人は本当に我を見失っているのか。それとも他に意図があるのか?

「弟さんが絡むと見境ないですね」
「お互い守るものがあれば本気になれるだろう?」
 学生時代、彼と手合わせすると必ず言われた。
「真剣味がたりないと」
 義之自身、模擬戦だという甘えがあり、必ず手加減してしまった。
 ここぞという時に攻撃をやめてしまうのだ。

「手加減しません。超能力で対抗させていただきます」

 宣言した義之は、正人が放ってきた攻撃呪文を無造作に自分の念で薙ぎ払った。
 義之の未熟な退魔術で達人である正人に対抗するには明らかに不利だ。
 彼は本来の戦闘スタイルに立ち返る事にした。

 義之は裕也の側に瞬間移動(テレポート)し即座に裕也を守るための防護壁(バリアー)をはった。
 言霊に念を載せて張る結界と精神力だけで作る防護壁の違いはその持続力にある。
 一度作ってしまえば長時間持続する結界を作り攻撃だけに専念すればいい正人と、絶えず気を張って防護壁を維持し続ける義之では義之の方が分が悪い。
 短期決戦、気力があるうちにカタをつけなければ負けてしまう可能性が大だ。
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