第202話 アナザー 二人の高森 その10

文字数 526文字

「……そうですよ。角田護先輩」
「……なぜ、僕の名前を知ってるの?」

今更説明するのもつらい。
俺は眼を伏せた。

「そうよ。彼、私の名前も知ってた。超人クラブの事も」
「知ってる!知ってるよ!泉加奈子さん」
泉の言葉を途中で遮った。

「オレ、前の世界でクラブのメンバーだったんです」
涙が出そうだった。

「全員の名前知ってます。菊留義之先生や、佐藤仁先輩。大山智花先輩の事だって」

似て非なる世界に飛ばされて、それがどんなに怖い事なのか。
よくラノベで「異世界に召喚されました」なんて設定があるけど、主人公は皆、なんであんなに能天気なんだ。書いた奴のつらを拝みたい。イヤ、むしろ、今の俺と変わってほしい。

不安で胸が押しつぶされそうな気がしてくる。
少しは俺の気持ちを味わってみればいいと思ってしまう。

「確かに君、この世界の高森とは似てもにつかないよね。凪の高森と言えば、泣く子も黙る鬼番長だし」

そんな風に言われてんだ……俺。
クスッと笑った。
俺はそんなに強くない。そんな度胸、全くない。

幾分、和らいだ角田先輩の口調。名称がお前から君にかわっていた。
角田先輩にこの世界の俺とは違う事を認めてもらって俺はちょっとだけ安心した。
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