第229話 アナザー 二人の高森 その37

文字数 719文字

だが、オレにとっては嬉しくない言葉だったらしい。

「マジやめろ!オレ三日前に、染めたばっかなんだぞ。いくらかかったと思う?
 1万くだんないんだから」
「まぁ、それぐらいはするだろうな」
「お前の事情なんか知らない。ともかく外見だけでも高森のままでいて貰わないと困る」

角田先輩はそれだけ言うとフイっと横を向いた。
オレの外見は先輩の気に障るらしく、いつものような笑みは一切みられない。
呪というものはどのくらいまで効力を発揮するものなのかと常々思っていたが、オレの髪を染め替えるくらいの間は余裕で持続していた。

金から黒に染め替えられた俺は鏡をみてほっとした。そこにいるのはいつもの俺だった。
ブルーのカラーコンタクトで色付けされた瞳以外は。
だが、角田先輩はそのカラコンも気に食わなかったらしい。
オレの顏を覗き込んではっきり不満を表明した。

「高森、そのカラーコンタクトも外せ」
「うっぜーなぁ。カラコンくらいつけさせろよ。いちいち指図すんな」
当たり前のごとく反抗するオレ。その態度に俺は閉口した。

「開成南はカラコンを認めてない」
「学校、学校ってうるさい奴だな~」
「似合わないからはずせ」
「イヤだ」
「じゃあ、こういえばいいのか? 僕は高森の琥珀色(アンバー)の瞳が気に入ってる」

黒曜石の瞳がガラスの様に煌めいて瞬いた。
一瞬見とれて、言われたオレは赤面して口ごもった。
俺にとっては見慣れたものだったが、初めて先輩の瞳を覗き込んだ者は誰でも、その綺麗な輝きに引き込まれてしまう。

「……わかったよ。外せばいいんだろ。はずせば」

オレはカラコンを外してケースに収めた後、鏡を覗き込んで瞳の色に見入った。
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