第139話 わらし

文字数 1,043文字

「嬢ちゃん、気ィつけないかんよ。あんたはすぐ、良くないもんを引き寄せる。
 今だってほれ、あんたの後ろにわらしがくっついとる。早う、とらんと何されっか、わからんぞ」

泉加奈子は学校からパンクした自転車を引きずって家に帰る途中。
一人のおじさんに声をかけられた。近所でも変わり者で有名な人だった。
でも、泉にはおじさんが悪い人ではないという事はわかっている。

挨拶もちゃんとしてくれるし世間話も普通。
綺麗好きでいつも家の周りを箒で掃いて掃除している。
ただ、時々、わけの分からない事を言って皆から敬遠されているのだ。

「こんにちは、おじさん、わらしって何ですか?」

意味を図りかねておじさんに質問した。

「わらしって言うのは小さな子供のこった。
最初は見えん。だんだん見えるようになる。ほれ、今、嬢ちゃんの後ろにおるじゃろ」

おじさんはそれだけ言うとそそくさと掃除道具をかたずけて家の中に入ってしまった。

童って何?妖怪?それとも幽霊みたいなもの?
気味が悪くなって後ろを振り返るが霊感のない泉に見えるはずはない。
ただ言葉が聞こえる残留思念とも違うようだ。
首をひねりながらも玄関まで帰ってきて、泉は鍵を差し込んで家の中に入った。
例のわらしは後ろにいるのだろうか。気になって仕方がない。

超人クラブのメンバーが浮かんだがこの手の話ができるのは菊留先生しか思いつかない。
携帯を取り出し電話をかけた。
呼び出し音がすごく長く感じられる。

『もう、せんせー、早く出てよ!』
「呼び出しましたが近くにおりません。お留守番サービスに接続します」
「うーん、もう、先生ってば!」

泉は歯噛みして携帯を切り、角田先輩の所に電話をかけた。
こちらは早く出た。流石に現代っ子だ。

「もしもし、泉?」
「あっ、先輩、どーしよ、私また、へんなもの拾ったみたい」
「えっ、変なもの?どんな?」
「う……ん、たぶん菊留先生しかわかんないと思う」
「ふーん」
「先生に電話したけど出ないよ。もうやだ、怖くて動けない」
「泉、今、どこ?」
「家だけど」
「そう、こっちは市立図書館だけど」
「うん、わかった。なんとかそっちに移動するからそこにいてね」

携帯を切ってお出かけカバン一式に読みかけの小説を突っ込み鍵をかけ、家を出る。
しばらく大通りを歩いていると後ろから子供の声がした。

「五つ歩いて植木鉢、七つ歩くと一万円、十二で角を曲がらんせ」
「えっ?」

何、今の……残留思念?
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