第254話 アナザー 二人の高森 その62

文字数 672文字

「アナザーな高森君。こちらの世界の要君はね」
 そう言いながら先生は俺の方に視線をなげた。

「人たらしなんですよ」

 微笑みながら言った。
 えっ、何だ。それ、なんだか、女たらしみたいで嫌なフレーズなんですけど。

 先生は俺の考えを読んだのか。
 可笑しそうに笑った後、人たらしについて詳しい説明をはじめた。

「人たらしは他人の為に心を砕く。自己主張しない。礼儀正しい。
 人を皮肉ったり、否定したりしない。誰に対しても平等で誠実。
 人の悪口を言わない。ポジティブでいつも笑顔。人を裏切らない。話しやすい。
 そして人を褒めるのがとても上手なんです」

 すごい。良い人っぽい。そんな人間いるのか。

「言われてみればそうだな。高森といるとなごむんだよ」

 ……それって俺?俺の事なんですか?
 ほんとに?

 珍しい!佐藤先輩に褒められた。
 何だか嬉しい。今までで最大の賛辞なんですけど。

「ばっかじゃん。そんな甘ちゃんで世の中渡ってこれるわけねーだろ」

「ちゃんと世の中渡ってこれてる。彼は彼なりに自分の居場所を確保してますよ」
「……」

「こっちの要君は君と違って、とても人間が好きでとても甘え上手なんです」
「そうなのか……」
「そして、彼は人に愛されたいと思っている」

『えっ?』
 その言葉に俺は赤面した。
 にやにやしながら佐藤先輩が俺の顏を覗き込んできた。

「へえーっ。そうなんだ」
『佐藤先輩、恥ずかしいんであんまり顏、見ないでください』
「お前、やっぱかわいいな」

 佐藤先輩はくすっと笑った。

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