第209話 アナザー 二人の高森 その17

文字数 642文字

「ほらっ、見ろ。やっぱ、森じゃないか」
佐藤先輩はそう言ってずかずかと森の中に入って行った。森の入り口は下草が払われていた。
点々と飛び石が配してあり奥へ奥へと続いている。青々としたブナの木立。

今朝見た空き地とは似ても似つかない。

「……うそっ、だって、今朝ここで組み手を」
「……たぶん、原因はここですね。妙な気の流れを感じます。おそらくは竜穴でしょう」
「竜穴ってなんですか?」
「龍脈は地中を流れる気のルートで、竜穴は気が噴き出すポイントの事です。
 風水ではそこに住む一族は繁栄すると言われています」

「つまり?」
「時空を超えたのはたぶん、ここからですね」
森の奥に視線をやり、入り口に立つ石碑を読んで先生が言った。

「この森は昔、この地を闊歩し、旅人を襲う鬼を退治して作られた鎮守の森です。
 森を壊した事で竜穴が開き、彼の能力が増幅されたという事でしょうか」
「能力?」
「そうです。彼はクラブのメンバーだと言いましたよね」
「あっ、そうか。高森、お前の能力ってなんだ?」
「パラレルワールドを移動する事」
 俺は佐藤先輩に問われて即答した。

「……やっかいな能力だな」
 そう。やっかいだ。
 いきなり発動して、自分が持っている記憶とはかけ離れた世界に飛ばされる。
 しかもトラブル続きだ。今度ばかりは心底自分の能力を封印したいと思った。

「原因は解ったので、今日はこれで解散にします。明日10時にもう一度、ここに集合しましょう」
 皆その言葉に頷いた。
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