第82話 先生のフィアンセ その6

文字数 785文字

仁がトイレから出てくると食卓の上には三人分のカレーライスとサラダが載っていた。
天板の厚いダイニングテーブル。四人分の猫足の椅子。一人暮らしにしては立派すぎる。
三人で着席して手を合わせた。

「いただきます」
仁はくすりと笑う。
「手を合わせるなんて小学校の給食みたい」
「どんな時でも感謝の心を忘れずに手を合わせるんですよ」
俄神父にでもなったような面持ちで先生はツッコミをいれた。
「ぶっ!!」
一口食べてむせた。
げほっげほっとせき込んでいる。
カレーの横に用意されたグラスの水を一気に煽る三人。

「かっらー、ひかりさん。何を……。」
「ガラムマサラ?」
「唐辛子じゃね?そんな味がする」
「トウガラシ?そう言えばベランダのプランターに唐辛子植えたって言ってました」
有名店の十辛カレーを思わせる激辛な味に涙をこらえて先生は言った。

「これは……何かの報復でしょうか」
「違うと思う」
ひかりはお風呂に入る前にはもうカレーを作り終えていた。
養子の話はその後の事で報復にカレーの中に何か入れることはありえない。

「……先生、ほんとにあの人と結婚するの?」
「ええ」
「婚約、破棄されてよかったんじゃ」
「いいえ、断じてそんな事はありません」
きっぱりと言い切って先生は椅子から立ち上がった。

笛吹ケトルに水を入れ火にかける。
食品のストック棚を物色してカップ麺をみっつ取り出した。
「今日の食事はこれにしましょう」
二人の返事を待たず、包装紙を破り蓋を半分まで外して湯を注ぐ。
激辛カレーよりはましだったから、三人共、それを胃袋に収めた。

お洒落なカフェで食事をしていたひかりは、くちゅんとクシャミをした。
「やだわ、誰かうさわしてる」
食事したなんて嘘だった。
先生の家でカレーを作って自家栽培した唐辛子を投入した。
あんなに辛くなるなんて……。

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