第228話 アナザー 二人の高森 その36

文字数 833文字

「バカぁっ、放せよ。おろせー、こんのやろうぉーっ」

執事の田森さんに、かつぎあげられてじたばた抵抗するオレ。
肩につの字に引っかけられた形になっているのでなんとも不格好だ。
もっとも呪がかかったままなので、たいした事は出来ない。
せいぜい、身をよじるぐらいだ。
かつぎあげられたままエレベーターで地下駐車場に移動した。

四人、そこに止めてあったベンツに乗り込む。
オレは荷物のように扱われベンツの後部座席に強引に座らされた。
オレの両隣に二人の先輩が座り、逃げ出せないようにがっちり、ロックをかけたうえで田森さんが角田先輩にお伺いをたてた。

「護様、どちらにお連れしましょう」
「お連れ?ざけんなーっ、どう見ても拉致だろ。犯罪だろ。さっさと降ろせよ」
まだ抗う元気あるなんてすごい。俺は舌をまいた。

「うん、そうだな。では行きつけの美容院へ行ってくれ」
オレの言葉に反応せずに、角田先輩はしれっとのたまった。
「美容院『アンジュ』でよろしゅうございますか」
「たのむ」
「承知いたしました」
エンジンをかけ車はスムーズに駐車場から車道へと走り出した。

「びっ、美容院ってまさか髪を染め替えるつもりじゃ」
ギョッとした顔でオレは言った。
明らかに焦りが伺える声音だ。

「こちらの世界でたとえ数日でも、高森要として過ごすつもりなら、
 しっかり本人になりきってもらう」
にこりともせずに角田先輩は言った。

「ふっ、ふざけんなー。てめえらに髪の色を決める権利はなーい」
わめき散らすオレの言葉に反応して、奥二重の双眸が不愉快そうに細くなり、オレをにらみつけた。

「開成南は髪を染めるのを認めてない。
 こちらの高森は手つかずの黒髪だ。金髪なんてありえない」

「そうそう、こちらの高森は真面目でかわいい奴だ。
 高森のイメージを壊さないでくれないか」
佐藤先輩も申し添えた。

俺ってそういう評価だったんだ。
俺に言われた言葉ではないけどなんとなく照れた。
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