第357話 アナザー 邂逅 その5

文字数 487文字

「裕也、次はもっと静かな乗り物でたのむ」
「うん、じゃあ、次は観覧車で」

 言いながら、園内ガイドのパンフレットを開いて眺めていると、
 前方から猛スピードで走ってくる高校生くらいの男子二人組が見えた。
 彼らは後ろに数人のギャラリーを引き連れている。

 すれ違って裕也はぴたりと足を止めた。
「どうした。裕也?」
「……ん。今の二人。良い気を纏ってる」
「……先頭の男子二人か」
「うん。特に右の子」
湖北一宮(みうち)か?」
「いや。違う。あれは修行したものの気配じゃないね」

「どっかで見た顔だな。あっ、右側にいたのは高森 要じゃないか」
「高森 要?」
「昔、朝ドラの子役で結構人気あった」
「知らない」

 湖北一宮の本部は隔絶された山の中にある。
 田畑を耕す自給自足の生活。

 テレビという娯楽は当然排除されていた。
 裕也が芸能関係の話を知らないのは仕方がないといえる。

「裕也は世情にうといんだな」
「当然だよ。文明の利器の無い生活してたんだから」
 里を離れる事になってようやく携帯を持たされた程度なのだ。
 彼は正真正銘の情報弱者だった。
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