第112話 先生のフィアンセ その36

文字数 920文字

義之はひかりに過去世の話を始めた。

自分は前世でロシアの名もない田舎町に生まれた事。10歳でどんな病気でも直すことの出来る癒しの能力に目覚め、その能力故に国家機密である超能力研究所に実の両親に実験体として売られた事。超能力を引き出すための薬剤を過剰投与されて15歳で亡くなった事。

現世において中学時代に、その時の記憶がよみがえり、超能力者としてさまざまな力が使えるようになった事。過去の因縁により、かつての研究者と一戦交え、前世の自分の遺伝子によって作られた実験体アレンを保護する羽目になった事。

「すごい話。そういう事ならはやく言ってくれればよかったのに」

アレンに初めて会った時は全く人の話を聞く気がなかったくせに、ひかりはシレッとそんな事を云う。

「……私は、アレンを養子にしたいと思っているんですが、ひかりさんが嫌だと言うなら婚約の話はなかった事に」

 義之が深刻な顔をしてその言葉を口にするとぴたっとひかりは義之の唇に人差し指を押し当てて言った。

「あのねー。私、今回の事でわかったの。ゆきがそばにいないと人生がつまんないって。ゆきはどうなの?私と一緒にいて楽しい?」

「それは、もちろん」

「だったら、もう私たちの出会いって天の配剤だと思わない?互いが運命の相手なの。だからね、私はゆきと離れるなんて無理なの。養子の件、答えは迷わずイエスです」

眼を見開いてひかりをみる。義之の眼に涙が光っていた。

「……ありがとう……ひかりさん」

予知能力はすべてが丸く収まる事を伝えてはいたが、万が一予知が外れることもあるし、もしかしたら、自分の勝手な思い込みだったかもしれないのだ。
義之は改めてひかりの器の大きさに感謝した。

「それにね。25歳で16歳の青年の母親なんて、ちょっとかっこいいよね。
 きっと参観日とか。お前の母さん若いとか言われてさ。」
「そうですね」
「一緒に歩いたら、彼女扱いされるかも知んないし」
「……それは、困ります」

有りえる話だ。だってひかりは実年齢よりずっと若く見えるのだ。義之は微苦笑した。
恋敵(ライバル)が前世の自分に瓜二つの義理の息子とか洒落にならないと思った。
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