第344話 アナザー 護の笑えない理由 その28
文字数 665文字
「……」
匠は苦虫をかみつぶしたような顔で舌打ちをした。
先輩の双眸がゆっくりと開いた。
苦し気に眉根を寄せている。
かろうじて体を起こし先輩は彼の兄を見上げた。
「……兄さん」
「護、この無礼者を屋敷からつまみ出せ」
「……できません」
「何ッ!」
静かに、だが、はっきりと先輩は言った。
「……高森は……大事な客人です」
「客人だと」
「護 が俺に口答えするのか?」
「します。大事な友を守るためなら」
そうだ。先輩。兄という呪縛から自分の心を解き放つんだ。
こんな時に夢見さんがいれば…‥。
菊留先生の呪、俺にも使えるだろうか。
今ならできる気がする。それは確信にも似た予感。
亡くなった角田夢見をこの場に顕現させる。
俺は目を閉じた。口元にスッと二本指をたてて……。
あの時、先生何と言っていたのか。日本は言霊の国。言葉に気持ちを載せて……。
「天地開闢 の理によりて、視えざるモノを現にしめせ。顕現 」
腕 を回して弓道場に呪を解き放った。
瞼を開くと目の前に靄 が出現していた。
それはみるみるうちに光り輝く人の形をなした。
妖精が出現したのかと思った。
白いカクテルドレスを纏った角田夢見。
全身に光の粒を纏い、長いまつげが縁どる双眸は黒曜石のように瞬いて……。
緑なす黒髪は肩まで伸びてプリンセスラインで結い上げられている。
気が付くと先輩によく似た美しい乙女が先輩のそばに寄り添っていた。
匠は苦虫をかみつぶしたような顔で舌打ちをした。
先輩の双眸がゆっくりと開いた。
苦し気に眉根を寄せている。
かろうじて体を起こし先輩は彼の兄を見上げた。
「……兄さん」
「護、この無礼者を屋敷からつまみ出せ」
「……できません」
「何ッ!」
静かに、だが、はっきりと先輩は言った。
「……高森は……大事な客人です」
「客人だと」
「
「します。大事な友を守るためなら」
そうだ。先輩。兄という呪縛から自分の心を解き放つんだ。
こんな時に夢見さんがいれば…‥。
菊留先生の呪、俺にも使えるだろうか。
今ならできる気がする。それは確信にも似た予感。
亡くなった角田夢見をこの場に顕現させる。
俺は目を閉じた。口元にスッと二本指をたてて……。
あの時、先生何と言っていたのか。日本は言霊の国。言葉に気持ちを載せて……。
「
瞼を開くと目の前に
それはみるみるうちに光り輝く人の形をなした。
妖精が出現したのかと思った。
白いカクテルドレスを纏った角田夢見。
全身に光の粒を纏い、長いまつげが縁どる双眸は黒曜石のように瞬いて……。
緑なす黒髪は肩まで伸びてプリンセスラインで結い上げられている。
気が付くと先輩によく似た美しい乙女が先輩のそばに寄り添っていた。