第133話 泉と先生との出会い その10

文字数 788文字

広い園内、芝生の上にブランコや、ターザンロープ、ジャングルジムなど遊具が点在している広場があり。その周りをぐるりと囲む、樹齢50年以上の太い幹を擁した樹木の林を抜け、すっかり葉桜になった桜広場まで来ると先生は、くるりと向き直って周りに誰も居ないことを確かめてから、並んで歩いてきた泉に話しかけた。

「泉さん、つかぬことをお伺いしますが、最近ずっと足が重くありませんか?」

「……どうして……それを」
言われてみれば、重く感じる。歩きはじめると何ともないのだが、ずっと立つ姿勢が続くと足の上に何か重しがかかったような違和感を感じるのだ。

「やっぱり、そうですか」
「……。」
「いつからですか?」

泉は賢明に記憶の糸を手繰る。
「……4か月くらい前からです」
「4か月……よく耐えましたね」

先生は口元に二本指を立てて何事か小さく唱えた。
『天地開闢の理によりて、見えざるものを現にしめせ、顕現』

一旦手を握りこむとそのまま何かをほうる仕草をして足元に「呪」を投げつけてきた。
泉は自分に向かって粉袋を投げつけられたような気がした。

四散する波紋。
その波動が足を中心に周りに広がっていく。
と同時に小さな鬼が泉の足に張り付いている姿が露になった。
体はやせ細り,のどは針のように細く、腹が異常に(ふく)れている。
親指サイズのそれが泉の両足それぞれ5~6匹は張り付いている。

「ひっ!なっ、なんですか。これ」

餓鬼(がき)です」
「餓鬼?」

「六道の餓鬼道におちた亡者(もうじゃ)の事です。無縁の死者の事も指しますが、六道とは三悪道の一つ。仏教用語でいう所の地獄の事ですね。前生の悪行や貪欲(どんよく)な性質の報いとして餓鬼道(がきどう)に生まれるといいます」

先生は泉の足元にしゃがみ込んで餓鬼を見つめている。
つくづく変わった先生だ。
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