第１１９話　　先生のフィアンセ　その４１

その週の土曜日。
佐藤仁は菊留先生のアパートを訪問した。

「おっじゃましまーす。あっ、アレン」
「いらっしゃい。仁」

扉を開けて出迎えたアレンに仁は聞いた。

「先生は？」
「ひかりさんとリビングダイニングにいますよ」

勝手知ったる他人の家。
仁はスリッパを履くとパタパタ音を立ててをキッチンに向かった。
ひかりとは相性がよくない。だが、あえて平然と声をかける。

「こんにちはーっ、先生、ひかりさん」
キッチンにいたひかりは包丁を持ったままくるりと振り向き仁に言った。
「あらっ、いらっしゃい。青二才君」
「ひかりさん」

リビングにいた先生のたしなめた口調にもひかりは動じない。
仁は仁で青二才と言われたにも拘わらず平然と言葉を続ける。
「どーも、今日はご相伴に預かります」
「どうぞ、何のお構いはしませんが」
ひかりから可愛げのないことばが返ってきたが気にせずリビングのソファに座っている先生に小さな声で話しかけた。

「先生、今日はカレーじゃないんだよね」
「はい、パスタらしいですよ」
「あーっ、よかった。俺、パスタ大好き」
「それはよかったです」

「さあ、召し上がれ」と言われて三人で席につくとパスタ皿にスライスした玉ねぎと房わけしたブッロコリー、角切りベーコンゆであがったパスタ麺を一緒に炒めた一品がのっている。
ソースはオイルソースなのかなんら異状なさそうだ。

いかにも美味しそうなパスタに見える。