第128話 泉と先生との出会い その5

文字数 647文字

カタタン、カタタン。
カタタン、カタタン。

規則的な電車の音。
朝の快速電車はいつも満員だ。
目的の駅まであと三つ。次の駅で乗客は半減する。
大半が次で降りるからだ。それは解っている。
分かっているのだが、泉加奈子はそこまで立っていられるかどうか。
全くわからなかった。

吊革につかまる手に力が入らず、ずり落ちた手でサイドにあった手すりにつかまった。
ぐらりと目まいが襲ってくる。
ヤバい。この症状は前にも体験したことがある。
体全体から力が抜けていくのがわかる。
自分ではどうにもならない。ついに壁伝いに床に崩れ落ちかけた。

後ろに立っていた人が気がついて支えてくれた。
「大丈夫ですか?次で席が空きますから」
頷くが自力で立ち続けることは不可能だった。

眼鏡をかけてスーツをきた細身で長身の男性。
後ろにいた彼が抱えてくれてかろうじて立っていると。
電車はようやく次の駅につき、乗客の大半が降りた。
すかさず車内に設置された椅子の方に誘導され、体を横たえられた。
短いスカートを気にしたのか腰から下に男物のコートがかけてある。
非難めいた乗客の眼があったが、彼はその客に向かって頭を下げ、

「すみません。あの子が貧血を起こしたようなので、動けるようになるまで寝かせたいんです」
と説明していた。
『知り合いでもないのに……お人よしだなぁ』
ぼんやりとそう思いながらも彼の言葉に安心して少しの間寝入ってしまった。

カタタン、カタタン。
カタタン、カタタン。

規則的な電車の音。
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