第334話 アナザー 護の笑えない理由 その18 

文字数 853文字

 タクシーで15分ほど移動した先に響のアパートがあった。
 響の部屋は木造二階の角部屋だ。
 外階段を上がって部屋の鍵を開けるとすえた臭気が鼻をつく。

 部屋の中を一目見て裕也が叫んだ。
「うわっ、汚い。男やもめに蛆が湧き、女やもめに花が咲くってほんとだね」
「ぬかせ!君の目付け役の話が急に来たから、掃除する暇もなかったんだ」

 響は顏を赤らめながら、乱暴に靴を脱ぐと中に入り、ごみ山を器用に(また)いで
 奥の部屋に行きカーテンを開けてベランダの窓を開け放った。
 差し込んでくる光が眩しい。

 とりあえず部屋の真ん中にある座机のまわりのレポート屑をかたして、座る場所を作ると裕也に言った。
「さて、これから、どうしよう」
「……僕、もう、この逃走劇にあきた。そろそろ反撃してもいいんじゃないかな」
 反撃。裕也に言われるまで考えもしなかった。
 妖退治に特化した呪術でも、当然人間にも効果がある。
 先ほどの男一人なら、自分たちの力だけで相手をねじ伏せて裕也の命を狙う黒幕を吐かせる事も可能かもしれない。

「それからさぁ。やっぱり、今日は遊園地に行きたい。昨日約束したでしょう?」
「うん。確かに言ったな。約束は果たす。でも、その前に掃除が先だ」

 響は壁際に設置された多段引き出しの中から、地域指定のゴミ袋を取り出して袋の口をあけた。
 机の上に散乱した菓子の袋や紙ごみを放り込んでいく。
 ゴミはそこだけじゃなく机の下にも落ちている。一日二日のごみの量じゃない。

 床に散乱したペットボトルを足でつぶしながら裕也が言った。
「響って彼女いないの?」
 世話好きの彼女がいれば部屋はもっと綺麗だろう。
 そうでなくても彼女が部屋に遊びに来るとなれば、それなりに見栄をはって掃除くらいはするものだ。
「残念ながらいない」

 たんたんと答えて真面目に掃除する響に裕也は苦笑した。
 二か月も一緒にいるのだから、もう少し打ち解けてくれてもよさそうなものだが、響の言い方は愛想がなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み