第339話 アナザー 護の笑えない理由 その23

文字数 585文字

先輩は脱力してその場に座り込んだ。

 俺は飛び去っていくカラスを凝視していた。
 確かに矢は届いた。
 貫かれたと思った。
 だが、現実にはそうはならなかった。
 何故だ。

「高森、お前、今、何を」
 角田先輩は眼を見開いて問いかけてきた。
「……」
 答えられなかった。
 自分にも何が起きたのかわからなかった。
 今のは俺の能力か?
 ふいに佐藤先輩の言葉が脳裏に蘇った。

『高森、お前、使える能力をかくしてるよな』

 佐藤先輩が言ってたのはこの事か?
 俺にも超能力があるって事なのか…‥?
「何だ。今の光は!」
 角田匠は眼をしばたいて、信じられないものでも見るかのように俺を見た。

「お前、陰陽師なのか?」
「違う。俺は」

 俺は何だ。
 皆と同じように学校に行って。
 学生生活を送っていたただの高校生で。
 ある日、突然平行世界にとべるようになった。

「高森要。学生です」
 それ以上でもそれ以下でもない。

 俺は先輩と匠の間に割って入り挑むように匠を睨みつけた。
 彼は180半ばある巨躯だ。
 圧倒的な存在感。
 成長途中の高校生では到底、匠を凌駕する事は不可能だったが。
 匠の視覚から角田先輩の姿を隠したい衝動にかられた。

「それより、匠さん。先輩に詫びて下さい」
 俺は「ですます」口調をキープした。最低限の礼儀だと思ったから。
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