第237話 アナザー 二人の高森 その45

文字数 766文字

「なっ、なんだよ。一体」
せき込みながら先輩に抗議するオレは心から不満そうだった。

「なぜ、角田に喧嘩を売った」
佐藤仁は至近距から苛立たし気に怒声を浴びせている。

「……いけませんでしたか?」
「いけませんも何も、いいか。アイツは月だ」
月は太陽がなければ輝けない。

その太陽の役割をはたしていたのが、高森だった。
「明るく見えてもアイツの内面は月そのものだ」
輝きがなければ冷たさだけが際立つ。

「俺はそういう角田をもう見たくないんだよ。今の顏、一年前のアイツの顏だった」
自傷行為を繰り返し、斜に構えたそれこそ、人生を投げているような目つき。
そのアイツが心から笑えるようになったのは高森 要に出会ってからだ。

「俺が一年かかって出来なかったのに高森はたった三ヶ月でアイツを笑顔にした」
「へぇ、そうなんだ」
「高森は偉大だよ。 俺はそんな高森を評価してる。
 分かったら二度と角田に喧嘩を売るな。後生だから」

「分かりましたよ。大人しくしておきます。
 あの、オレも帰っていいですか。少しやりたいことがあるんで」

佐藤 仁はただ頷いた。

そしてオレから目をそらして呟くように言った。
「八つ当たりして悪かった。すまない……。」

事情のよくわかってないアナザーなオレに八つ当たりした事を恥じて、仁はろくな挨拶もせず地下駐車場から出て行った。

「ダン!」
部屋に戻ったオレは力一杯机の上に拳を叩きつけていた。
『なんだよ。あの態度 ……ちっくしょう。わけわかんねぇー。』

そうだろうな。と俺思った。
一年前の先輩たちなんて俺だってよくは知らない。

『所属した当初は本当に根暗で会話に困るほどだった』
菊留先生は角田先輩の事をそんな風に言っていた。
佐藤先輩の態度から察するにそれは真実なのだろうと思った。
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