第258話 アナザー 二人の高森 その66

文字数 817文字

 笑い声が響くカウンセリングルーム。
 皆が笑顔になってる。
 なんて気持ち良い空間だろう。

 アナザー世界の超人クラブとは大違いだ。
 向こうの角田先輩は何かと人に噛みついて場の空気をとがったものにしてしまう。

 どうして、いつも笑顔でいてくれないんだろう。
 どうして、いつも仏頂面なんだろう。

 笑うとこんなに素敵なのに。
 人を魅了する笑顔なのに。

 俺は向こうの角田先輩にも笑っていてほしい。
 怒った先輩の顏なんて見たくないのに。
 もしかして、向こうの世界で小学生の時にオレと先輩は出会わなかったのか。

 そんな事を考えているとカウンセリングルームの扉をノックする音が響いた。

「菊留先生。大山智花です。ちょっと開けてもらえますか?」
「智花さん。他に誰かいますか」
「いいえ。私、一人ですけど」
「わかりました」

 先生は開錠した。
 ガラッと扉が開いて智花先輩がひょっこり顔出した。

「あーっ、やっぱり、こんなとこにいた。佐藤君、今日、日直だよ」

 仁を見つけた智花は片頬をふくらませて、
 とってきたばかりの日誌を見せながら不満そうに言った。

「あっ、そう言えばそうだった」
「はやくショートホームルームで発表するスピーチ考えないと」
「わーっ、どうしよう。何も考えてないよ。マジでやばい」


 そこまで言って、智花は日誌をぽとりと足元に落とし言葉を飲み込んだ。

 部屋の中に菊留先生と隣に立つ佐藤 仁。
 その後ろに立つ角田 護と二人の高森 要(おれ)を見て彼女は驚きの声を上げた。

「えっ?……何?なんで高森君が二人いるの?」

 目をぱちくりさせてひたすら驚く彼女に佐藤先輩が声をかけた。

「ありがとな、智花、いいところに来た。
 紹介しよう。こちらが元パツキン頭のアナザー高森。
 こっちがえーっと幽霊のコッチの高森だ」

 言いながら、佐藤先輩は床に落ちた日誌を拾い上げた。
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