第102話 先生のフィアンセ その25

文字数 676文字

「来週、俺は見合いすることになったよ」
「そうですか。よかった。女っケがないから心配してたんです」

素直に喜ぶ義之に弘明は困ったような笑みを浮かべた。
一体、誰のせいだと思ってるんだか。
女性の前ではあがり症になる。

きっと呆れられて女性の方からお断りを入れてくるだろう。
義之だって自分の性癖を知らんわけじゃないだろうに。
まぁ、見合いなんてなるようにしかならん。

自分の性格を理解できない相手と結婚したって幸せになんかならないだろうと弘明は達観していた。

「タバコ、相変わらずですね」
「うん、こればっかりはやめられんな」

義之は換気の為にテラス戸を開け放した。

「いい加減にやめないと肺がんになりますよ。そうそう、藤堂。
 煙草の税金は一般財源なので道路を作ってるワケじゃないらしいですよ」

「そんな事、知ってる。モノノ例えだ。そんぐらい税金治めてるって言いたかっただけだ」

「義之」
弘明は苗字ではなく再び、彼を名前で呼んだ。

「なんですか?藤堂」
「彼女と和解しろ」
「……そうですね。神が思召すなら」
「宗教じみた言い方しやがって、もっと素直になれよ」

「……ありがとう、藤堂」

そんな会話を交わした後で藤堂弘明は菊留義之のアパートから帰って行った。

明け方の彼のマンションでさんざん書き散らされて、くしゃくしゃにした紙ごみの山から見つけたメモに記されていた言葉は「おまえは動くな」だった。

彼はその言葉通り自分が動いてすべてを円満に解決してしまった。
得難い友を持ったと思う。

「見合いがうまくいきますように」
弘明の思惑も知る由もない義之は心からそう思っていた。
優しい彼の友を思って……‥。
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