第140話 わらし その2

文字数 982文字

振り返ると小学一年生くらいの子供がいた。
ティーシャツに短パンをはいてる普通の男の子だ。
ビーチサンダルを履いて片足で地面をけって歌を歌っている。
眼の周りが黒ずんでクマができているように見えるのは気のせいだろうか。

「お姉さん、このまま行かない方がいいよ。五つ歩くと植木鉢だよ」

子供は妙な予言をして、謎めいた顔で笑う。
「……えっ、一体どういう」

ガシャンと数歩先で何かが壊れる音がした。
子供に気が付かなれば確実に歩いていただろう方向で植木鉢が壊れて粉々に砕けていた。
コンビニの上半分が居住区になっている。そこのビルから落ちてきたものらしい。
まともに歩いていたら泉を直撃していただろう。
ゾッとして子供を見る。

「大丈夫、今度は一万円だから」

子供はキャラキャラと笑いながら次の予言をする。
こういうのは無視するに限る。
泉は、そっぽを向いて植木鉢をさけ、足早にその場を立ち去ろうとした。
七歩目、何かを踏んずけた。確認すると一万円札だった。
財布に入れそびれて前方から風に飛ばされてきたお金だ。
追いかけてきた人に一万円を渡してお礼を言われた。

悪い予言といい予言、今度は角を曲がれ??って言った?
左右どっちに曲がっても目的地の図書館にはいけない。

12歩目に差し掛かって、一瞬躊躇し立ち止まった。
曲がるべきなのか。そうでないのか、その一瞬が泉の命を救った。
目の前を自転車が結構なスピードで掠めたのだ。
立ち止まらなかったら泉は確実にけがを負っていただろう。
驚愕(きょうがく)の表情で子供を見る。
子供はニタニタと笑った。愛らしい子供の表情には到底見えない。
なんなの、ほんとに怖い。

『あんたには、わらしがついとる』
近所に住むおじさんの言葉を思い出した。
もしかして『わらし』ってコレ?
泉は耳を塞いで図書館の方へ走り始めた。
クラスでもけっこう速い方でいつも、リレーのアンカーに選ばれている。
足の速さには自信があった。だが、後ろをついてくる子供はもっと速い。

子供を巻いたつもりになって立ち止まり、ハアハアと肩で息をしているとまた、すぐ近くで声がした。

「お姉さん、どうして逃げるの?逃げないでよ。
 僕、お姉さんの事、気にいっちゃった。僕と鬼ごっこしようよ」

子供の声は息一つ乱していない落ち着いた声だった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み