第260話 アナザー 二人の高森 その68

文字数 669文字

「ちなみにこの帯、まっすぐだから」
「まっすぐって?」
「段差や、ビルの形関係なく体のある所にまっすぐ伸びてる。
 私の言ってること、屋上から見てみればわかるよ」
『アドバイスありがとうございます』

 うすうす感じていた。言われた通りだ。
 幽体だと障害物は避けなくていいし、段差を飛び降りても衝撃がない。
 たとえ、東京タワーから飛び降りたってダメージを負う事はないだろう。

 分かってはいても、ついつい人間らしい行動をしてモノを回避してしまう。
 だって、幽体になってから間がないのだ。
 慣れるには時間がかかる。

 だが、感覚で分かる事もある。
 幽体になれば……人の体を借りる事もできる。

『ごめん、アナザーなオレ。体借りる』
「えっ?」

 言いながら俺はオレに重なった。
 頭の先から足の先までにブレることなく。
 俺の意識下にオレの意識を抑え込んで体の主導権を握った。
 手も足も俺の意思どおりに動く。
 そして角田先輩と向き合った。

「角田先輩、お願いがあります。俺の『道しるべ』になって下さい」
「はぁ?……何?」
 俺は両手を角田先輩の背中にまわし、思いっきりぎゅっと抱きすくめた。

 先輩は眼を見開かせて。
 ただ、驚いていた。

「……たかもり?」
「……」
「……俺、こっちの高森です。もう少し、もう少しだけこのままで」

 目を閉じた。
 先輩の体温が伝わってくる。鼓動が伝わってくる。
 生きてる。すごく当たり前だけど。

 先輩が動揺しているのは解っていたけど、俺も不安要素を消し去りたかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み